6つ目の真空容器セクターモジュールの据付が完了
数百万件のデータが導いた、1400トンの精密作業
2026年7月29日
2026年7月28日、6基目となるセクターモジュールの据付が完了し、ITERトカマク炉心部の3分の2がトカマクピット内へ収まりました。約1,400トンのモジュールがサブアセンブリツールから吊り上げられ、ミリメートル単位の精度で定位置へと厳密に据え付けられていく姿は圧巻です。しかし、この巨大な動きを裏で支える膨大なデータの流れもまた、それに劣らず見事なものです。
6基目となるセクターモジュールの据付の様子(写真提供:ITER機構)
約30時間に及ぶ大規模な吊り上げ作業には100人を超える関係者が詰めかけ、7月28日(火)の午後、トカマクセクターモジュール#1(全9基のうち6基目)が安全に据え付けられました。
この据付は、ITER組立における二つの重要な節目を意味します。
プラズマチャンバー全体の3分の2の組立が完了したと同時に、韓国が製作を担当した最後の真空容器セクターの配置も完了したことになります。
作業を統括したITER機構の主任建設マネージャー、マチュー・ドゥメイエール氏は、次のように述べています。
「セクターモジュールの準備開始からトカマクピットへの搬送完了に至るまで、すべての工程は綿密に計画され、着実に実行されました。このプロセスに携わった多くのチームの献身的な努力のおかげで、この極めて重要なマイルストーンを達成することができました。」
ITERにおけるセクターモジュールの吊り上げは、一分の隙間もない連携が求められる作業です。クレーンオペレーター、監視員、測量担当者、安全管理者、監督者、そしてエンジニア。総勢100名を超える専門家が4交代制でそれぞれの役割を途切れることなく引き継ぎ、作業を安全かつ円滑に進めるために緊密に連携しています。
その中でも重要な役割を担うのが管制デスクです。ここでは、セクターモジュールがサブアセンブリツールから離れる最初の瞬間と、最終位置まで残り500ミリメートルに迫る最難関の局面において、モジュールの構造的な挙動を常時監視しています。
吊り上げ作業の前半、管制デスクはセクターモジュールを保持するサブアセンブリツールの基部に設置されます。画面のダッシュボードには、各種センサーから取得されるデータが、オペレーターが瞬時に把握できる形式で提示されています。(写真:ITER機構提供)
各セクターモジュールは、真空容器セクター、2基のトロイダル磁場(TF)コイル、サーマルシールド、および補助機器で構成されており、吊り上げ作業のための専用吊り具や仮設補強構造が装着されています。
これらの主要機器はそれぞれ重心が異なる上、段階的に吊り上げが行われるため、吊り荷の重心とクレーンの吊り点が一致せず、荷重分布が変化する局面を想定しなければなりません。その結果、予期せぬ挙動が発生したり、部材同士が干渉したりするおそれがあります。
こうした不測の実態を防ぐため、管制デスクでは数十種類の専用センサーを駆使し、リアルタイムの計測データを過去の実績データや有限要素解析(FEA)による設計予測値と常に照合しています。万が一、想定外の挙動が検知された場合には即座に作業を中断し、原因究明と必要な補正措置を講じる体制が整えられています。
これまでトカマクピットへ据え付けられた6基すべてのセクターモジュールの吊り上げ作業で管制デスクを担当してきた、ITER協力企業Arial Industriesの機械エンジニア、ジョルディ・ウッチェス氏は次のように説明します。
「セクターモジュールの吊り上げ作業において、真に重要な事象の多くは目に見えません。だからこそ、吊り上げの各局面で最も重要な数値へと意識を研ぎ澄ませなければならないのです。常に誰かが、その数値を注視し続ける必要があります。」
左:2基のTFコイルを支持する補強材(ロッド)の1本。各ロッドには8枚のひずみゲージが装着され、その上から黒色の樹脂で保護されています。右:ひずみゲージから取得されたリアルタイムデータが、管制デスクのダッシュボードに集約されています。(写真:ITER機構提供)
これらの数値は、部材に作用する応力を算出するためのひずみゲージをはじめ、ラッシング材や補強材の荷重を測定するロードセル、部材間のすき間を測定するレーザーセンサー、傾きを測定する傾斜計、さらには接続部の荷重を測定するロードピンなどから取得されています。これらの計測機器は非常に高い精度を備えており、ひずみゲージを固定する接着剤の柔軟性に至るまで、微細な影響要因があらかじめ校正(考慮)されているため、常に正確なデータが保証されています。
センサーは1秒間に10回の頻度でデータを記録しており、吊り上げ作業全体を通じて数百万件ものデータが生成されます。管制デスクのチームは、刻一刻と送られてくるこの膨大なデータをリアルタイムで解析し、的確な状況判断を下しています。
この膨大な情報を、専用ソフトウェアと独自のダッシュボードで統合・解析しているのが、ITER機構の組立エンジニア、アレッサンドロ・ヴァッカーロ氏です。同氏はグラフィックデザインと情報技術の経験を生かし、管制デスクのシステム構築に貢献しています。
ヴァッカーロ氏は次のように語ります。
「私たちは、データの視認性を徹底的に高めました。ダッシュボードの役割は、単に情報を並べることではありません。オペレーターが瞬時に状況を把握できる形で、情報を提示することです。
今回の作業を通じて、私たちはデータの「量」を増やすことよりも、データの「質」を高めることこそが何よりも有効であると学びました。」
セクターモジュールの吊り上げを支える管制デスクは、さながらアポロ計画におけるヒューストン管制センターのようです。写真は、モジュールが据付位置に迫る中、ポートセル内のデスクでセンサーデータの流れを注視するアレッサンドロ・ヴァッカーロ氏(左手前)とジョルディ・ウッチェス氏(中央)。(写真:ITER機構提供)
今回の吊り上げに向け、管制デスクのチームは5月から始動しました。部材へのセンサー取り付けを監督するとともに、基準となる測定値(ベースライン)の取得を実施。その後、予測データやチェックリストを整備し、作業の1週間前には初期段階の管制デスクをサブアセンブリツールの基部に設置しました。そこから、吊り上げ前の準備作業、そして7月27日(月)午前に行われた最初の重要なリフト動作の監視にあたりました。
この初期段階が終了すると、監視員と測量担当者が、組立ホールからトカマクピットへと移動するセクターモジュールの位置を追従して確認しました。一方、管制デスクもトカマクピットへ移設され、モジュールが据え付けられる際の荷重分布を監視するとともに、部材同士が干渉するおそれがないかを厳密にチェックしました。
今回、セクターモジュール#1の搬送が完了したことで、すでにトカマクピットへ据え付けられている#4、#5、#6、#7、#8 の5基と合わせて、計6基のモジュールがピット内に出そろいました。
ITER機構は、年内に7基目となるセクターモジュールのピット搬送を予定しています。
約30時間に及ぶ作業を経て、7月28日(火)の午後、セクターモジュールは定位置への据付に成功しました。(写真:ITER機構提供)
作業は7月27日(月)早朝、組立ホールで行われた作業前ブリーフィングから始まりました。(写真:ITER機構提供)
7月27日(月)午後、サブアセンブリツールから姿を現したセクターモジュール。核となる真空容器セクターは2026年2月にこのツールへ搬入され、トロイダル磁場(TF)コイルやサーマルシールドなどが取り付けられて一本化されました。(写真:ITER機構提供)
サブアセンブリツールを離れ、組立ホールとトカマクピットを隔てる壁を越えるための方向転換(ピボット)を行うセクターモジュール#1。クレーンに吊り上げられたモジュールと専用吊り具の総重量は、1,400トン近くに達します。(写真:ITER機構提供)
作業を統括したITER機構の主任建設マネージャー、マチュー・ドゥメイエール氏は次のように述べています。「工程ごとに固有の技術的課題はありますが、この成果は関係するすべての組織が発揮した、並外れたチームワークの証にほかなりません。」(写真:ITER機構提供)
セクターモジュール#1をトカマクピットへ降下させる前、交代するシフトのメンバーが引き継ぎを受けています。7月27日から28日にかけて行われたこの吊り上げには、100人を超えるITER職員や協力会社のスタッフが結集しました。(写真:ITER機構提供)
ITERのセクターモジュール組立プロジェクトリーダー、ニコラ・サペ氏は、自身が手掛けた吊り上げ作業の記念ステッカーを勲章のようにヘルメットに貼っています。彼のコレクションに、間もなく「SM1」(2026年7月27~28日)のステッカーが新たに加わります。(写真:ITER機構提供)
セクターモジュールがトカマクピットへ移動する際、その位置を追従確認するために測量機器(メトロロジー機器)が使用されます。写真は、ポートセル内で同機器の設置・調整を行う様子です。(写真:ITER機構提供)
トカマクピットへと近づくセクターモジュール#1。このモジュールはすでに据え付けられている5基の向かい側に配置されるため、外側(アウトボード側)を先頭にした「後ろ向き」の姿勢で、ピットの隔壁を越えて搬送されています。(写真:ITER機構提供)
トカマクのポートセル内に設置された管制デスクから、セクターモジュールの降下作業が常時監視されます。(写真:ITER機構提供)
6基目のセクターモジュール据付が完了したことで、プラズマチャンバー全体の3分の2の構築が達成されました。(写真:ITER機構提供)
100人を超えるITER職員や協力会社のスタッフが集結したこの吊り上げ作業。写真は、セクターモジュールがトカマクピット内の定位置へ据え付けられた直後の、着地(ランディング)チームです。(写真:ITER機構提供)
【引用元】
ITER機構サイト ITER NEWSLINE|Sector module lift
Millions of data points, one successful lift
(29 Jul 2026)