ITER機構FAQの翻訳(ITERについてよくある質問)
このページは、ITER機構のWebページ FAQs を翻訳したものです。
更新日:2023年6月
FUSION AND THE ITER PROJECT
核融合とITER計画
ITER(ラテン語で「道」の意味)は、エネルギー源としての核融合の実現可能性を証明することを目的とした大規模な科学実験です。ITERは現在、南フランスに建設中で、中国、欧州連合(EU)、インド、日本、韓国、ロシア、米国の7極が資金と科学的資源を結集し、史上最大の核融合炉を建設するという前例のない国際的な取り組みを進めています。ITERは発電こそしませんが、核融合炉を商業用に設計できるよう、科学的・技術的に重要な課題を解決することを目指しています。プラズマを加熱する装置で注入された50MWの入力パワーから500MWの核融合出力パワーを生成する(増倍率10)ことで、ITERは次のステップである核融合原型炉への道を開くことになります。
ITERの建設は2010年に南フランスで始まり、それと並行してITER参加7極の工場で大型模型や実機の製作が進められています。機器は次々にITER建設サイトに到着し、2020年5月には、先に完成していたトカマクピットに最初の「機器」として1,250トンのクライオスタットベースが設置されました。
ITERは、現在世界で進行中の最も複雑な科学技術プロジェクトの一つです。ITERの設計の複雑さは、すでにさまざまな分野の最先端技術のレベルを上げつつあります。しかし、核融合エネルギー商業化への課題をクリアするためには、さらなる技術開発が必要です。
ITERは、現在のプラズマ物理学の研究に焦点を当てた核融合装置と、将来の核融合発電所の橋渡しとなる実験ステップです。
プラズマ物理学の研究者は、ITERで初めて燃焼プラズマに到達します。燃焼プラズマでは、核融合反応によって生成されるヘリウム原子核のエネルギーがプラズマの温度を維持するのに十分であるため、外部からの加熱を減らすか、あるいは無くすことができます。核融合エネルギーから電気を作るには、核融合反応を持続的に継続できる自己加熱プラズマが将来的に重要な鍵となります。
自己加熱が支配的なプラズマを作るため、ITERは現在稼働中の最大のトカマク核融合実験装置(イギリスのJET)の2倍の大きさで、プラズマの体積が10倍になります。この独自の実験装置(ITER)は特に以下のように設計されています。
・長時間(400~600秒)のプラズマで、50MWの加熱入力から500MWの核融合出力(Q≥10)をを生成する。
・アルファ粒子加熱(自己加熱)が支配的な重水素-トリチウムプラズマの閉じ込め
・核融合発電所技術の統合運転の実証に貢献する
・トリチウム増殖モジュール概念の試験
・核融合装置の安全性の実証
核融合は、残された技術的課題を克服することができれば、持続可能な地球規模のエネルギー供給のための長期的で有望な選択肢となります。
ITERのような前例のない規模のプロジェクトは、世界中の協力を得て、数十億ユーロが支出される中で進められます。したがって、プロジェクトの目的や科学的・技術的な根拠について、必ずしも科学者の間で合意が得られるとはいえません。抽象的な議論であれば科学的な合意を得ることは可能かもしれませんが、研究費をめぐる競争が激しい科学技術開発の世界では、大規模なプロジェクトにお金をかけることに対して、各分野の科学者が「他のところにお金を使ったほうがいい」と批判されることは避けられません。
ITERプロジェクトは、全人類に将来のエネルギーの代替案を提供する大きな一歩であるとエネルギー分野の科学者の間で考えられています。このプロジェクトに対する政治的・科学的アプローチは、少数の有力者によるロビー活動から突然現れたものではなく、世界中の核融合科学者が数十年にも及び辛抱強く一歩一歩進めてきた研究の成果です。また、関係する政府の科学行政が、選択肢、コスト、リスク等を真剣に議論した結果、ITERがエネルギーに対する未来への投資として価値があると判断されました。核融合に関する主要な国際科学会議や核融合ジャーナルで発表される論文のうち、ITERに直接関係する論文の割合は近年着実に増加しています。これはITERが核融合エネルギーの生産に向けて、いかに重要なプロジェクトであるかを示しています。
重水素-トリチウム燃料を用いて Q≥10 を達成するITERの将来の運転段階は、ITER計画の核心であり、プロジェクトで最も重要な期待される成果ということは明確です。そしてこれまでの設計、建設、製造、設置、組立の全フェーズで得られた事についても注目する事が大切です。多くのITERの初のタイプの機器に関連する何百もの技術上の課題は、世界中のトップレベルの研究所や企業がイノベーションとエンジニアリングのブレークスルーを要求して、既に克服されています。その意味で、世界的なITERプロジェクトはすでに学べる研究所となっています。世界の核融合研究開発コミュニティの多くは、民間の核融合プロジェクトの急増とそれに伴う投資は、ITERのこれらの初期段階での成功が原動力になっていると報告しています。
核融合研究とITERの役割は、ヨーロッパの資金援助機関と他のほとんどのITERパートナーが設置した独立の専門家委員会に厳密に調査されてきました。これらの調査結果は、科学コミュニティーで最も信頼の高い評価をITERに与えています。以下に例を紹介します。
・2004年、ITER交渉の初期段階で、英国政府の最高科学顧問であるデビッド・キングが議長を務めるハイレベル委員会は、現在ITERを進めるべき時期であると結論付け、英国政府に核融合エネルギーへの「ファストトラック(近道)」アプローチに対して資金提供を推奨しました。2013年、欧州核融合開発協定(EFDA、現EUROfusion)は、2050年までの核融合エネルギーの実現に向けたロードマップを発表しました。
・フランス科学アカデミーは、磁場閉じ込めシステム(ITERを含む)とレーザー駆動システムの最先端技術と残された課題について詳細なレビューを行いました。2007年にこのレビューは本として出版され、ITER建設を支持する議論を支援しました。
・米国は、1990年代後半にITER共同研究から離脱した後、再参加を決定するまでに長いプロセスを経てきました。米国科学アカデミーは、核融合科学者と核分裂発電、高エネルギー物理学、宇宙物理学などの関連分野の権威ある科学者たちを招集し、委員会を開催しました。委員会では、核融合分野以外の科学者にも提言の場が設けられ、核融合エネルギー実現への最善の道筋として米国がITERプロジェクトに再び参加することを強く支持しました。
・中国は2011年、核融合の研究開発を行うために、10年間で2000人の熟練した専門家を養成する計画を発表しました。
・2016年、米国エネルギー省は、米国連邦議会に報告書を提出し、2018年に行われる再評価で米国のITER参加継続を決定するよう提言しました。 「ITER組織の運営、プロジェクトの業績が大幅に改善されたこと」、「予定より遅延しているがITERは燃焼プラズマ研究に最適であること」がその理由とされました。
・2017年6月、欧州委員会は14ページの報告書「改革されたITERプロジェクトに対するEUの貢献について」を作成し、ITERプロジェクトを軌道に戻したと表明しました。
・2017年12月、米国科学アカデミーは、米国における磁気核融合研究の現状と展望に関する2段階の研究の第1部を発表しました。その中で、米国の政策立案者は、ITERプロジェクトへの参加を継続し、核融合エネルギー実証のための長期戦略を策定するよう求めました。
・2018年4月、欧州閣僚理事会は、欧州委員会に新しいITER基本計画(コスト、スケジュール、スコープ)の承認を義務付ける声明を発表しました。その1ヶ月後、欧州委員会はITERプロジェクトを明確に支持する2017-2021年予算案を発表しました。
・2019年、米国科学アカデミーは最終報告書を発表し、米国がITERへの参加継続を提言しました。報告書は「発電所規模の燃焼プラズマで経験を積むための費用対効果が最も高い方法」だけでなく、「コンパクトな試運転プラントの建設につながる付随的研究・技術の国家的プログラムを開始すること」も提言しています。
・2020年3月、米国において国立研究所、大学、民間ベンチャーを代表する数百人の科学者は「核融合エネルギーとディスカバリープラズマ科学のコミュニティプラン」発表し、米国のITER参加継続を促しました。また、核融合エネルギーを開発しプラズマ科学を推進するために、どのような対応をとるべきかを積極的に発信しました(報告書のダウンロードはこちら) 。この提言は、2020年12月に採択された米国エネルギー省、核融合エネルギー科学諮問委員会(FESAC)の最終報告書「Powering the Future」の基礎となり、今後、すべての決定と実施を担うDOE核融合エネルギー科学局の諮問資料として機能します。
・米国エネルギー省(DOE)の要請を受け、12人の科学者からなる委員会は、可能な限り低い資本コストで電力を生み出す核融合発電所を建設するために必要な、主要となる目標と、イノベーションに関する指針を示すことを目的として、『Bringing Fusion to the U.S. Grid』を執筆しました。2021年2月に発表されたこの報告書では、50メガワットのパイロット核融合発電所の建設が求められています。報告書の全文はこちらからダウンロードできます。
・最近の発表では、日本、韓国、中国、イギリスも磁気閉じ込め核融合への投資の長期戦略を積極的に進めていることが明らかになっています。
最初の小型トカマク(1950年代~1970年代)は、高度な制御システムや技術を持たない基本的な装置でしたが、高温プラズマの発生やエネルギーの閉じ込めが可能であることを実証しました。この最初の実験では、異常輸送、不安定性、ディスラプションなどの新しいプラズマ現象が発見されました。スケーリング則は、高磁場の大型装置でエネルギーの閉じ込めが良くなることを示しました。
1980年代の第2世代の中型装置では、ダイバータの追加により閉じ込め性能の向上が実証され、壁調整技術も導入されました。ASDEXトカマクは1982年に初めて高閉じ込めモードを達成しました。
新世代の大型トカマクであるJET(欧州)、JT-60(日本)、TFTR(米国)、KSTAR (韓国)、T-15(ソ連)は、核融合炉に限りなく近い条件でプラズマを研究するために建設され、核融合科学の進歩に応じて定期的に改良されました。超伝導コイル、重水素-トリチウム運転、遠隔操作などの新機能が導入されました。これらの経験がITERの設計に貢献しました。
現在、核融合研究は核融合反応の熱をプラズマ内で十分に維持し、反応を長時間持続させる「燃焼プラズマ」の研究開始間近です。このような研究開発は核融合エネルギーの実現に向けて必要なステップです。核融合エネルギーの実用性を実証するために信頼を確立させます。ITERの建設と研究プログラムの実施は、これらの研究開発を可能にします。
世界中にあるトカマクは、ITERの建設と運転を支援するために準備を進めています(国際トカマク研究の詳細)。
核融合を起こす方法は複数あります。磁場閉じ込め概念(主にトカマク装置とステラレータ装置)の中で、ITERのトカマク技術は、最も研究が進んでいるという利点があります。ITERは結果を重視してトカマク概念を選択しました。ステラレータはトカマクに比べて本質的に複雑ですが(例えば、スーパーコンピュータの出現以前は最適化された設計は不可能でした)、運転の信頼性という点で利点があります。ドイツのグライフスヴァルトで、2015年に最初のプラズマを発生させたヴェンデルシュタイン7-Xステラレータは、同等のトカマク性能と比較して良好な指標を打ち出します。これらの実験結果は、ITERの次世代核融合装置であるDEMO(原型炉)の設計コンセプトを決定する際に取り入れられるでしょう。
一方、慣性核融合の概念は全く異なり、主に核爆発を模擬して開発されてきたもので、もともと核融合エネルギーを生み出すことを目的としたものではありませんでした。慣性核融合の概念は、これまでのところ、磁場閉じ込めよりエネルギー効率が優れていることや迅速なエネルギー生産の可能性を実証していません。しかし、2022年末にNational Ignition Facility(米国)で、2.05メガジュールのレーザーエネルギーを使って3.15メガジュールの核融合エネルギーを生成し、Q値1.5に達することに初めて成功し、興味深い結果が得られています。(詳しくはこちら)
また、過去5年間で、多くの民間の新興企業がこの分野に参入し、代替タイプの核融合炉を開発するために推定45億米ドルを調達していることも注目すべき点です。核融合の電力を電力網に供給するという共通の目標に向かって、それぞれが何らかの形で貢献しているのです。
ITERプロジェクトでは、当初から重要な機器の製作をITER参加7極で分担するという方法を戦略的に実施してきました。これにより、プロジェクトの複雑さは増しましたが、参加極は核融合発電への次のステップである核融合原型炉の建設に向けて、産業インフラストラクチャ、科学的基盤を整備し、物理学者・技術者の育成ができます。
ITERを建設するための資金や技術がどの参加極にもないことは明らかです。各参加極はプロジェクト費用の一部のみを拠出することで、開発プログラム(技術、材料、科学や最初の特許出願)と20年間の実験プログラムから利益を得ることができます。
プロジェクトにおいて異なる法人との連携・協力は常に改善されています。核融合研究の注目すべき点は、長い間、国際的な共同事業を行ってきたことで、世界のとある発見が他の研究プログラムにすぐに役に立つということです。これはITERも同様で、世界各地のトカマク炉の運転研究をはじめ、ITER参加極の多様な経験がプロジェクトに反映されています。
ITERが単なる建設プロジェクトであれば、連携・協力の方法は違ったものになっていたでしょう。しかし、世界最大かつ最も困難なエネルギー研究プロジェクトであるITERに参加する7極は、核融合研究を数十年経験しています。核融合実現への困難な課題を解決するために資源をともに分かち合うという観点でITERは最も目的にかなうものとなっています。
2020年1月31日にEUからの離脱した英国は、欧州原子力共同体(Euratom)からも離脱しました。英国は他のEU加盟国と同様に、ITER協定の契約当事者であるEuratomを通じてITERプロジェクトに参加していました。
2020年末までの11カ月間の移行期間中に、英国政府関係者は、ITERプロジェクトに参加し続けることを望んでいると明言しました。
2020年12月30日、イギリスと欧州連合が締結した1,246ページの貿易協力協定と並行して、ITERに加盟するための欧州法人のEuratom(欧州原子力共同体)と英国との間の原子力協力協定(NCA:Nuclear Cooperation Agreement)が締結されました。NCAは、第12条「原子力研究開発に関する協力」で、英国がITERの欧州国内機関であるFusion for Energyの一員であり続ける意向を明確にしています。
現実的には、予想以上に長い移行期間のため、ITERプロジェクトは一般的に英国人の雇用や英国企業との契約を終了しています;しかし、ITERは英国人スタッフや英国企業との既存の契約を引き続き尊重します。そして、当事者が表明した意向が実現し、TERに無関係な相違が解決した際には、ITERプロジェクトは、再び英国人と英国企業の全面的な関与と参加を検討することにします。
ITER POWER AMPLIFICATION
ITERのエネルギー増幅
Q値(核融合増倍率またはエネルギー増倍率)とは、核融合反応で発生するパワーと、核融合反応を持続させるためにトカマク内に注入する外部からの加熱パワーの比率のことです。
ここでは、ITERの真空容器内で核融合反応を発生させる条件を説明します。
・真空容器内にガス状の燃料を注入します(ガスの重さ数グラムでトカマクの全容量を満たします)。
・電磁石、特に中央ソレノイドを流れる電気がガス中に電圧を発生させます。
・この電圧が燃料原子から電子を奪い、荷電粒子(イオン)に変えます。この新しい物質の状態はプラズマと呼ばれています。
・プラズマを制御するために使用される磁場の変化は、加熱効果を生み出します(「オーミック加熱」について)。
しかし、重水素-トリチウム核融合に必要な1億5000万℃の温度を得るためには、トカマクの外部からの3つの加熱システムで加熱が必要です。
・これらの外部加熱装置から注入されるメガワットクラスの加熱パワーは、入力加熱パワーと核融合出力パワーを比較するQ値の1つの要素です。
ITERの目標であるQ≥10は、加熱システムによる入力(50MW)の10倍の熱出力(500MW)を実現することを意味しています。
はい、非常に重要です。
Q=1(臨界、ブレークイーブン)は、プラズマパルス中の核融合出力パワーと、加熱システムからプラズマに注入するパワーが等しくなることです。磁気閉じ込め核融合装置では、これまで達成されたことがない事です。
現在のQ値の世界記録は、1990年代に0.67を出すことに成功した欧州のトカマクJET(英国)が保持しています。ITERはそれを実現するために設計された装置であり、それゆえに国内で核融合実験を行っている多くの国がこのプロジェクトに参加しています。
ITERの目標は10以上のQ値を出すことであり、これは世界で初めてかつ唯一の実験装置です。
水素同位体である重水素(D)とトリチウム(T)が核融合すると、「アルファ粒子」とも呼ばれるヘリウム原子核が1個、中性子が1個生成されます。
核融合反応で生成されるエネルギーの20%を持つヘリウム原子核は電荷を帯びており、トカマクの磁場に閉じ込められたままです(一方の中性子は逃げます)。このアルファ粒子のエネルギーによる加熱は、プラズマの温度を維持させ、外部からの加熱を減らすことができます。ヘリウム原子核による加熱(「アルファ加熱」)が支配的(50%以上)になると、プラズマは「燃焼プラズマ」と呼ばれます。
なお、燃焼プラズマは地球上でまだ生成されたことがありません。
はい、そうです。
ITERのような壮大な装置を作る必要性については、世界的に合意が取れています。アルファ粒子によるプラズマの加熱を最低50%利用した燃焼プラズマの実現は、70年にも及ぶ磁器核融合装置による制御核融合研究開発に不可欠な最後の一歩です。
Q=5では、プラズマ加熱パワーの約50%がアルファ粒子加熱によるものです。Q=10(ITER)では、この割合は66%まで上昇します。Q=20では、アルファ粒子加熱が80%を占めます。
ITER設計の一番の理由は、参加極の科学者が燃焼プラズマを研究し、より理解を深めてもらうことです。ITERで得た知識は、科学者や技術者が将来の商業用核融合発電所を設計する際に役立つでしょう。研究装置としてのITERは、後に続く商業用発電所よりもはるかに多くの診断装置や他の研究目的の装置を備えています。
ITERの真空容器の大きさと磁場の強さ(5.3 tesla:テスラ)を考慮すると、ITERのプラズマ(830m3)は最大15MA(メガアンペア)の電流を流すことができます。
この条件で、容器内の水素プラズマを約1億5000万℃にするためには、50MW(メガワット)の入力パワーが必要です。この温度は、十分な数の水素原子核から成る燃料の集まりに、核融合を誘発させるための十分な速度を与え、少なくとも500MWの熱出力を発生させます。
なぜ、ITERのQ値を30や50にするように設計しないのでしょうか?
トカマクはサイズが重要です。他のパラメータがすべて同じであれば、サイズが大きいほどQ値は大きくなります。簡単に言えば、Q値を大きくするには、主半径を大きくするか、磁場を強くする必要があります。しかし、どちらの方法も製作コストは著しく増加してしまいます。
ITERではQ値10を達成できれば、科学技術的に十分であると考えられています。(ITERプロジェクトの主要な科学技術目標)
ITERが発電までを目標にしてしまうと、プロジェクトの目的に大きな利益をもたらさないまま、コストの増加を余儀なくされることになります。
ITERは燃焼プラズマの物理的理解を深め、発電所でのプラズマ運転に最適なパラメータの探索を可能にするために、幅広いプラズマ条件で運転するように設計された実験装置です。ITERのようなトカマクの実験装置では発電量が非常に限られるため、核融合出力パワーを高温の蒸気に変換して発電機を駆動するために必要なシステムを追加することは、費用対効果が低いと考えられています。
プラズマエネルギーのブレークイーブンは、核融合反応の効率がQ=1に達したときのことを言います(「Q≥10には重要な意義があるのですか?」の項をご参照ください)。すなわち、プラズマパルス中に生成される総核融合出力パワーが、プラズマを加熱するシステムから注入される入力パワーと等しくなることです。ITERでは、Q≥10を達成するために、ITERのサイズを決め、超伝導磁石、外部加熱、ブランケット、ダイバータなどの主要機器の設計がされています。
工学的ブレークイーブンは、核融合発電所の入出力エネルギーバランスの評価において、外部加熱システムだけでなく、プラントシステムのすべてを考慮することになります。商業用核融合発電所は、施設全体を考慮したエネルギーバランスに基づいて設計されます。すなわち、送電網に送られる電気出力と、施設自体が消費する電力(トカマク加熱だけでなく、電磁石への電力供給、低温冷却プラントの冷却、診断・制御システムの実行などの二次システムも含む)との比較がされます。
FUSION AS A SUSTAINABLE ENERGY SOURCE
持続可能なエネルギー源としての核融合
この答えは、それぞれの科学の本質とその技術的応用に要因があるといえます。核融合と核分裂は、科学的技術的複雑さという点では桁違いです。
核融合の中心となる科学はプラズマ物理学ですが、プラズマの持つ非線形性と確率過程により非常に複雑です。核融合発電所を建設するためには、超伝導、高真空、低温学などの最先端技術が必要となりますが、これらの物理学は核融合発電所を建設するには未熟です。 ITERの重要な目的は、これらの技術を一つの装置に統合が可能であると証明することです。
一方、核分裂の技術はすでに何世代もの原子炉を進化させました。
今後は、温室効果ガス排出量の大幅削減に向けて、世界での取り組みが非常に重要です。
そのためには、現在の技術と近未来の技術をできるだけ早く導入する必要があります。世界の人口は増加し続け、都市部の人口割合は今後も増加すると予想されています。世界でエネルギーをより公平に分ける必要性や大規模な低炭素の持続可能なエネルギーが今世紀後半には必要とされるでしょう。その有力候補が核融合です。
核融合は大規模なエネルギー生産の可能性を持つ、数少ない選択肢の一つです。ITERは目標を達成するための大きな一歩であり、核融合発電所建設のための物理学的・技術的道標となります。ITERを成功させても、すぐに核融合発電所が建設されるわけではありません。DEMO(DEMOnstration fusion power plant:原型炉)と呼ばれる次のステップが必要となります。核融合発電の原型炉は、ITERで得られた知識やノウハウ、並行研究の成果を基に、核融合発電システムの実用化へ移行を示すものです。それぞれのITER加盟国は、さまざまな原型炉とパイロット核融合発電所に関して異なる国家的なロードマップ計画とタイムラインを持っています。
核融合の実用化までのタイムスケールは、この分野への公的な投資意欲に大きく左右されます。ロシアの著名な物理学者であり、核融合の歴史を語る上で重要な人物の一人であるレフ・アルチモヴィッチは、「核融合は社会が必要とするときに準備が整うだろう」と語っていました。
ITERは、今日の核融合実験装置と将来の核融合発電実証プラントとの重要な架け橋です。ITERは、今後開かれるであろう、科学的核融合エネルギーの工業化・商業化への道を開くための実験装置です。
ITERや並行研究で得られる知識やノウハウを基に、その次のステップである商業用実証プラント(DEMO:原型炉)を建設し、電力の大規模生産とトリチウムの自己充足性を実証します。すでにITER参加極でいくつかの概念設計が議論されており、ITERの運転開始に伴い、さらに詳細を詰める予定です。
2012年、欧州の核融合研究開発機関を再結集した欧州核融合開発協定(EFDA - 現在は EUROfusion)は、「核融合エネルギーの実現に向けたロードマップ」を発表しました。これは、2050年までに核融合電力を供給するための計画(野心的かつ現実的な目標)をまとめたものです。ロードマップでは、2040年代初めに数百MW(メガワット)級の電力を生産する原型炉を想定しています。EUROfusionのロードマップでは、BA(幅広いアプローチ活動)の枠組みの中で、欧州と日本が現在行っている研究開発を視野に入れています。
また、日本、韓国、インド、米国、ロシアは2040年代の運転に向けて、2030年代初めに原型炉の建設に着手する意向を表明しています。中国は2030年代に原型炉建設に着手する前に、2020年代に建設される試験炉(中国核融合工学試験炉(CFETR))で物理・技術的な課題を研究していく計画です。
核融合研究において、想定外の政治的・経済的な制約が発生する可能性もあります。核融合発電実用化までの最終的なタイムスケールは、この研究分野に投資する公的及び民間の意欲に大きく左右されます。
今世紀後半に想定される核融合炉は、原子炉と同様な出力、つまり1~1.7GW(ギガワット)の出力になるでしょう。理論的には、核融合炉が大きければ大きいほど効率的な運転ができ、発電量も多くなるので、将来的には大型化することが有利になるかもしれません。今のところ、将来の核融合発電所は、現在の原子炉や火力発電所よりも大きな建物にならないことが想定されています。
ITERや将来の核融合を用いた発電所の主な目的は、クリーンで持続可能な新しいエネルギー源を開発することです。1キロワットあたりの平均的な電力コストについては、ITERが何年か稼働した後に得られる運用経験値が必要であるため、まだ推定することはできません。多くの新技術がそうであるように、技術は新しいうちはコストが高く、生産規模が大きくなればコストは次第に下がります。
核融合を市場に流通させるためには、低コストであることを証明しなければなりません。原型炉では低コストで発電という目標はありませんが、原型炉の資本コスト(及び核融合発電所の資本コスト)を最小限に抑えることを考えています。ITERトカマクは、プラズマ研究のために診断装置を50台以上備えた世界初の実験装置です。一方で、核融合発電所は全く違った発想で作られます。
ITERや将来の核融合装置では、水素同位体である重水素とトリチウムを燃料として使用します。
重水素は、あらゆる形態の水から蒸留することができ、無害であるとともに広く入手可能で事実上無尽蔵の資源です。例えば、海水1立方メートルあたり33gの重水素が含まれています。重水素は、科学的あるいは工業的な目的で日常的に生産されています。
トリチウムは、自然界にほとんど存在しません。簡単に入手できる唯一の供給源は、CANDU型(カナダが1950-60年代に開発し、アルゼンチン、中国、インド、パキスタン、ルーマニア、韓国で採用)の重水炉(減速材に重水を用いる原子炉)です。しかし、CANDU型重水炉で発生するトリチウムは副産物に過ぎず、生成量はわずかです。世界中の生成量を合わせても年間20kg以下となりますが、ITER運転の燃料としては十分な量です。
商業用の核融合発電プラントを稼働させるには、熱出力1GWあたり、フルパワーで年間平均70kgのトリチウムが必要です。順調にいけば、22世紀の初めには数百の核融合プラントが稼働している可能性がありますが、この燃料はどのように入手するのでしょうか?
核融合が成功すれば、核融合反応そのものがトリチウムを生成し、さらにそのトリチウムが核融合反応の燃料となります。さらに、真空容器内では、安全で連続的内循環で処理が行われます。トリチウムは核融合反応時に生成され、それが燃料となります。このプロセスの鍵となるのがリチウムの6番同位体(Li-6)で、中性子の衝撃を受けるとトリチウムが発生します。 ITERではトリチウムを生成するためにさまざまな「トリチウム増殖モジュール」の試験をする予定です。試験では50%以下の濃縮リチウムが含まれる液体あるいは固体の化合物を使用します。(天然同位体比7.5%に対して)
では、核融合用のトリチウムを安定して生産するためのリチウムはあるのでしょうか?
リチウムは少なくとも数千年分存在します。世界で約5,000万トンの埋蔵量が(主に塩湖や鉱山で)確認されており、約300万トンのLi-6が存在することになります。海水に含まれるリチウムの質量は、0.1ppmの濃度で2,500億トンと推定されています。しかし、海水からリチウムを回収する費用対効果の高い方法はまだありません。
1年間分の1GW熱出力に必要となる70kgのトリチウムを生産するには、140kgのLi-6が必要です。稼働率を80%、熱から電力への変換効率を30%と仮定すると、1GWの電力(推定される平均的な核融合炉の大きさ)を生産するためには、年間約500kgのLi-6が必要となります。
したがって、1万基の核融合炉に必要なLi-6の総量は、年間5,000トンです。
リチウムを必要とするのは核融合だけではありません。ノートパソコン、携帯電話、コードレス電動工具、電気自動車などに使用されるリチウムイオン電池はシェアを拡大するでしょう。しかし、リチウムイオン電池は必ずしも核融合と「競合」するわけではありません。世界経済規模では、核融合用のリチウム濃縮工場から出る「廃棄物」であるLi-7をリチウムイオン電池の製造に利用し、リチウムサイクル全体の効率(とコスト)を最大化することが十分に考えられます。
核融合の専門家は、世界のエネルギーが核融合によって供給されることになったとしても、数千年分のトリチウムは確保できると考えています。また、海水に含まれるリチウムについても、数百万年分は存在すると考えられています。ITERのトリチウム増殖モジュール試験の当面の必要性については、 Li-6濃縮リチウムは既存のリチウム濃縮プラントから供給されます。原型炉のような次の核融合炉では、Li-6濃縮リチウムを十分な量生産するための新しい専用施設が必要になると思われます。
将来の核融合発電所ではトリチウムを生産しますが、ITERではトリチウムの自己充足はしません。
ITERの後期運転期間のミッションの一つが、テストブランケットモジュール(TBM)プログラムを通じて、複数のトリチウム生産コンセプトを実証することです。 TBMプログラムは、十分な専門知識を持つ欧州連合(EU)が長年にわたり実施してきたトリチウム増殖研究をベースにしています。ここで蓄積された知識は、ITERの実験結果が次世代核融合炉のトリチウム自己充足の向上に貢献することを確信させます。
現在の超伝導体技術に基づくITERと将来の核融合装置は、世界の総ヘリウム生産量のほんの一部を必要とします。
主なヘリウムは、米国に貯蔵庫があります。これは市場に出され今後数年で在庫は減少しますが、世界中の新しいヘリウムで補われます。他にも未開発のヘリウム埋蔵量があり、風船やMRIなどヘリウム使用者のために十分な量を確保しています。
今後のヘリウムの価格は、需要と供給のバランスにより予想はできませんが、核融合にとって大きな不足はないでしょう。
将来的には、核融合装置はトリチウムだけでなく、ヘリウムの生産も可能になり、天然の埋蔵量を維持することができるでしょう。
核融合と核分裂はどちらも核反応を伴うものですが、科学技術的には全く異なる概念です。 核分裂は、原子炉内に数トンの放射性燃料が入っており、原子核が連鎖反応で分裂(核分裂)することでエネルギーを発生させます。一方、核融合で連鎖反応は起きません。システム全体には数キログラムの放射性燃料(トリチウム)がありますが、反応を起こすためのトリチウムは、炉内に常に数グラムしかありません。
核融合技術を将来の大規模発電にするため、3つの安全性が考えられています。
第一に、核融合は核拡散のリスクがないことです。原子炉で使用されるウランやプルトニウムのような核分裂性物質とは異なり、トリチウムは核分裂性物質(熱中性子との相互作用によって核分裂を起こす物質)でも核分裂可能物質(高速中性子又は熱中性子との相互作用によって核分裂を起こす物質)でもありません。
第二に、核融合炉は高放射能・長寿命の核廃棄物を発生させません。燃料の「燃えかす」は非放射性ガスであるヘリウムです。システム内の放射性物質は、燃料(トリチウム)と運転中に放射化される物質です。現在進行中の研究開発プログラムでは、核融合炉の材料を100年以内にリサイクルできるようにすることを目標にしています。
第三に、核融合反応は本質的に安全です。核融合では、「暴走」反応とその結果としてエネルギー生産が制御不能になることはありません。核融合反応は自発的には維持できず、異常が発生したり、故障したりすると反応が止まってしまいます。これが核融合に固有の安全性があるといわれる理由です。また、地震や洪水で冷却機能が失われても、閉じ込め障壁には全く影響ありません。水冷システムが全壊した場合でも、ITERの閉じ込め障壁は残ります。閉じ込め障壁である真空容器は、いかなる状況でも融解温度に達することはありません。
核融合に伴う核リスクは、水素の放射性同位体であるトリチウムが考えられます。しかし、反応時の使用量は数グラムで、サイト内での保管量は数キログラム以内に制限されています。運転中の放射線の影響は、最も影響が大きい人でも自然放射線が与える影響に比べればはるかに小さいです。したがって、ITERでは周辺住民が避難しなければいけない事故は起こりえません。
RELIABILITY OF MATERIALS
材料の信頼性
核融合開発を成功させるためには、核融合炉内で過酷な熱や放射線に照射されても、本質的な物理特性を維持し、長期にわたり高レベルの放射能を出さない材料を開発することが大きな課題の一つとなります。
核融合研究開発では、すでに低放射化鋼の開発に成功しています。今後は、鉄鋼と同様に核融合炉向けのより高度な材料もさらなる開発が期待されています。
EURATOMと日本は2007年に幅広いアプローチ協定(BA協定)を締結しました。この協定は、発電を実証する将来の核融合炉(原型炉)のための研究開発と先端技術開発を行うことで、ITERプロジェクトを補完することを目的としています。現在、将来の核融合発電所と同様の環境下で、先進材料の試験・評価を行う国際核融合材料照射施設(IFMIF)の総合的な工学設計の完成に向けて、作業が進められています。
現時点では、第一壁の交換は運転スケジュールに含まれていません。しかし、必要に応じて運転期間中に1回は交換する可能性が考慮されています。プラズマの負荷の大部分を受ける機器(ダイバータ)は、運転期間中に1回以上の交換が必要となり、作業は遠隔操作でできるように設計されています。また、各機器はメンテナンスのために時々交換する必要があるかもしれません。
照射された材料は、閉じ込めキャスク内で遮蔽された区画(ホットセル)に移送されます。ホットセル内では、洗浄・集塵・除塵・改修・処分などが行われます。中レベルに分類された廃棄物は、ホットセル内で保管します。
照射された材料の処分はすべて予備安全報告書に示されている通り、ITERの運転の一部であり、フランス原子力安全当局による審査にも提出されています。
遠隔操作技術は、核融合応用技術のために開発されています。
最近改良された欧州トーラス共同研究施設(JET)では、作業員が放射化物にさらされないように、遠隔操作で作業しています。
核融合科学のコミュニティでは、大型超伝導磁石すなわち大型ヘリカル装置(日本)やTore Supra(フランス)を20年以上運用してきた経験があります。
超伝導の消失は簡単に検出されます。コイルに直列に接続された外部の抵抗器による安全回路は、コイルに蓄積されたエネルギーを吸収します。安全システムとバックアップが故障した場合、コイルは損傷する可能性がありますが、第一閉じ込め障壁に影響はありません。
ECONOMIC BENEFITS
ITERの経済効果
ITERは地元だけでなく、広く雇用を生み出しています。
まず、世界中で行われているITERの研究開発や製作活動について考えてみましょう。2020年、各ITER国内機関は、ITERのシステム、機器、インフラの開発・調達に関した契約数を3,000件以上と見積もっています。この直接の受益者は、ITER参加極の研究所、大学、産業界です。(契約はITER機構が直接行うこともあります)契約の多くは熟練した技術の貢献を必要としており、従来型の工業生産よりもはるかに労働集約的です。世界中で推定40億ユーロ相当がITER製作業を展開しています。
ITERへの欧州の建設貢献総額の4分の3以上が産業界に向けられると推定され、その割合は他の参加極も同様です。
ITER建設サイトの準備、プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール国際学校(マノスク国際学校)と港から「ITER建設サイトへの道」(重量物運搬道路)の建設に1,000人以上の人々が携わりました。さらに2010年半ばから2014年の間に2,500人、2014年から2020年の間に平均1,800人がITERの建設に携わりました。現在、サン・ポール・レ・デュランスでは、約3,500人がITERプロジェクトのために働いており(ITER職員、請負業者、臨時代理店、EU国内機関のスタッフと下請け業者、現場作業員)、従業員は家族とともに地域の経済活動に貢献しています。
建設・組立工事のピーク時(2019~2024年)には、1,000~1,500人の労働者がITERの現場で働くことが予想されます。
2007年以降、ITER機構、欧州ITER国内機関(全建屋を含むITERへのEUの現物出資を担当)、フランスのITER担当機関(Agence Iter France)により、総額88億7,000万ユーロの契約が締結されています。この中で、フランス企業は53億7,800万ユーロ相当の契約を獲得しており、そのうち70%(42億6,000万ユーロ相当)がPACA(Provence-Alpes-Cote d'Azur:プロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール)地域に拠点を置く企業に帰属しています(2022年6月30日までの統計)。
欧州委員会が実施した調査(「ITERおよびBAプロジェクトがEUの産業にもたらす経済効果に関するフォローアップ調査」欧州委員会、2021年)では、2008年から2019年までの期間、ITERがEU経済に与える経済効果はプラスであることが確認されています。粗付加価値(ITERへの貢献額からその生産に必要なすべての投入額を差し引いた値)の増分は、対象期間において17億3900万ユーロに相当します。 ITERによって直接または間接的に創出された対象期間のフルタイム雇用総数は、欧州で約29,500人に達しました。
直接的なITER関連の全ての業務1つに対して、さらに、間接的に関連した業務が作り出されたと推定しています。これらの間接業務は、通常、ITERのサプライチェーン内で発生するか、あるいはITER関連の賃金が他の製品やサービスに費やされることにより発生することが一般的です。
ITER SCHEDULE
ITERのスケジュールについて
ITERは現在、南フランスのサン・ポール・レ・デュランスで建設中です。
現在、ファーストプラズマに必要な建屋とインフラは89%完成し、機器とプラントの組立が進行中です。ITER装置の組立は2020年に開始され、ファーストプラズマで終了します。
ファーストプラズマから本格的な核融合運転開始までは、運転に向けて施設全体の準備期間です。この期間、ITERは核融合出力を上げる一連の実験と機器の組立を交互に行います。
ベルナール・ビゴ前機構長の下、ITER機構と参加各極の国内機関は、2015年に8ヶ月間のプロジェクト全体の内部評価を実施し、ITERの機器とシステム(設計、製作、納入、組立)を徹底的に調査しました。
その結果、技術的に達成可能なより良いプロジェクトスケジュールと見積もりが2015年11月にITER理事会に提示され、その後、理事会に任命された専門家による第三者委員会によってレビューされました。
ITER理事会は、2016年6月にファーストプラズマまでの資金計画を含めた統合スケジュールの改定を承認しました。さらに、2016年11月には2035年の重水素-トリチウム運転開始までの改定スケジュールを採択しました。
Covid-19のパンデミックは、ITERの製造に影響を与え(工場閉鎖、人員の欠勤)、また主要部品の輸送にも実際に影響が出ており(国際的な停滞)、ベースライン2016のスケジュールに対して若干の遅れをもたらしています。また、2022年11月にITER機構は、トカマクの重要部品である熱シールドと真空容器セクターの2つに技術的な欠陥があることが見つかり、大規模な修理が必要であることを報告しました(詳しくはこちらの記事でご確認ください)。
これらの不具合を完全に評価し、修理計画を立てる間は真空容器の組み立てを中断しています。ITERプロジェクトのベースライン(スケジュールとコスト)の更新案は、パンデミックの残存効果の包括的な評価と技術的な遅れに対する是正計画の策定が完了した後に、ITER理事会に提案される予定です。
地中海の港に到着した機器をITER建設サイトに運ぶため、サイトまでの道路、橋、交差点はフランスの負担で改良されました。
2015年1月に最初の超重量物(HEL)がITERのスケジュールに沿って輸送されて以来、約140個の超重量物が「ITER建設サイトへの道」(重量物運搬道路)を通り運ばれてきました。
2015年から2024年(予定)の間に、250個の超大型機器が、夜間にゆっくりとしたスピードで移動します。最も重い機器は900t、最も高い機器は10m、最も幅が広い機器は9m、最も長い機器は33mです。
ITER機構ではこれらの輸送一つ一つが地元のイベントになることを期待しています。
これまで輸送された最大のコンポーネントは、440トンの真空容器セクター、330トンのトロイダル磁場コイル、そして一番下のポロイダル磁場コイル(PF6、ほぼ400トン)です。
2015年3月に新ITER機構長にベルナール・ビゴ氏(フランス出身)が就任し、全参加極の賛同を得たプロジェクト全体の行動計画を実行に移しました。 プロジェクトの作業と全体的な方向性は、最低年2回開催されるITER理事会と理事会の支援組織である科学技術諮問委員会(STAC)、経営諮問委員会(MAC)、財務監査委員会によって注視されています。
ITERプロジェクトは、トカマク建屋の建設と主要な機器(磁石、真空容器、クライオスタットなど)の製作が完了しつつあり、機器やプラントの組立が進められる重要な段階に入っています。
ITER機構内には、建設に特化した新しい組織が設立され、ITER機構と国内機関の協力は順調に機能しています。ITER機構と7つの国内機関の緊密な協力関係は、情報に基づく迅速な意思決定と問題解決のために不可欠です。
すべての国内機関は、共同事業運営会議(EPB)で意思決定し、毎月の合同事業調整会合(JPC)や主要な機器やシステムのために設立されたプロジェクトチームを通じて、日々の管理を行っています。
過去数年で、システム工学、計画管理、構成管理、コスト抑制、品質管理、リスク識別/管理プロセスを改善しました。これらの改善は多くの内部及び外部レビューによっても確認されています(「ITERプロジェクトは科学コミュニティーの合意が取れているのでしょうか?」の項をご参照ください)。
ITER COST
ITERのコストについて
ITERは7つの参加極の協力によって建設されます。
建設費用はEUが全体の約45.5%を負担し、残りは中国、インド、日本、韓国、ロシア、米国が約9.1%ずつ負担しています。拠出金の大部分(90%)は「現物貢献」となります。つまり、参加極は資金の代わりに、機器や建物を直接ITER機構に納入します。
参加極の現物貢献は、約140の調達取決めに分けて行われています。調達取決めの文書には、プラントシステム、機器、サイト建設の調達のための技術仕様や管理要件が詳細に記述されています。各調達取決めの金銭的価値は、ITER機構内の通貨単位(IUA)で表されます。これは長期にわたる各極の現物貢献を経済的安定かつ公平を保つために考案されました。
調達配分は機器の評価額に基づいて参加極間で割り当てられました。機器が問題なく製作されると、それに対応するクレジット値が各極の口座に入金されます。したがって、9.1%分の貢献とは、さまざまな貢献のIUA値の合計値になります。
運転費用の分担は、EU34%、日本、米国13%、中国、インド、韓国、ロシア10%です。
フランスはEUの一員としてITERプロジェクトに貢献しています。フランスは「2017年までに12億ユーロ相当」貢献することを、ITER本部建屋の竣工(2013年1月17日)の際にジュヌヴィエーヴ・フィオラソ研究・高等教育大臣によって確認されました。さらに、フランスは総額約2億6,000万ユーロに及ぶ数多くの現物貢献(ITER建設サイトの準備、マノスク国際学校、重量物の輸送環境整備)を行っています。フランスの資金、現物貢献は、フランス政府及びITERがあるプロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール地域の地方自治体より10年間で合計4億6,700万ユーロをITERに提供することが約束されています。この貢献はITERがこの地域にもたらした契約や雇用に匹敵するものです。
詳細は「経済効果」の項をご参照ください。
全参加極にとって、ITER参加の潜在的利益は相当なものです。プロジェクトの費用の一部を拠出することで、各参加極は研究開発の成果を100%得ることができます。
2001年の設計に基づいたITERの当初のコスト見積もりは、建設費で50億ユーロでした。この見積もりは、当時入手可能な最新の情報に基づいたものでしたが、人件費の一部、資材の急騰、偶発的な費用が含まれていませんでした。また、世界初のITERトカマクの組立と試運転に必要な時間や機器の保管などの付随的な項目も適切に見積もられていませんでした。
2008年の詳細設計レビューでは、核融合技術の進歩に基づいてトカマク炉の変更が求められました。その結果、垂直安定性や周辺局在モード(ELM)コイルの追加などが2010年のベースラインに組み込まれ、全体のコストに上乗せされています。
また、ITER参加極の数が4極から7極に増えたことも、設計において多くのインターフェースが生まれ、より複雑になり、コストの増加につながりました。
また、2001年の見積もり以降、資材コストが当初の2倍(鉄鋼)、3倍(コンクリート)になったことも要因の一つです。
2015年、ITER機構は、ITERシステム、構造物、機器の製作と組立のすべてにおいて、詳細レビューと分析を実施しました。その結果、改定したスケジュールと全体コストの見積もりに、設計の完成度、プロジェクトの作業範囲、作業の優先順位、リスク、コストの改善が反映されました。また、スケジュールの見直しにより、ファーストプラズマを2025年12月、重水素-トリチウム運転開始を2035年としました。どちらも資源調達の確保を前提に設定されました。
以来、ITERの初号機の機器の製造には技術的な課題に直面しています。多くの場合、そうした課題は解決しています;その他の課題についてはまだ検討中となっています。 Covid-19のパンデミックの出現により、2016年のベースラインはもはや達成できないことが明らかになりました。最近発表された納入済み機器の不具合も含め、ITER機構はITER理事会で検討するためにベースラインの最新版を作成します。
ITERの建設は複数の参加極が協力し、それぞれが自国の通貨で機器を現物調達する責任があるため、建設費の推定を単一の通貨に換算することは適切ではありません。
2016年のITER予算改定前には、EUは建設費用を世界全体の貢献で66億ユーロと見積っていました。しかし、各参加極の貢献はそれぞれの工業生産コストに応じて増減があり、ITER建設への貢献率に応じても異なります。欧州の評価に基づくと、過去には7極の建設コストは合計約130億ユーロ(製作をすべて欧州で行う場合)と示されていました。
2016年11月のITER理事会にて、ITER機構はファーストプラズマ(2025年 注1)から重水素-トリチウム運転(2035年)までの計画スケジュールを大幅に改定することを提案しました。
改定スケジュールに沿った全体の計画コストは当初の見積もりに40億ユーロを追加し、各参加極の国内の予算編成プロセスを通し、承認されました。
ITERの費用は、中国、EU、インド、日本、韓国、ロシア、米国の7極が出資しています。全部合わせて35ヶ国がITERプロジェクトの費用を分担していることになります。
ITERプロジェクトの他のフェーズについては、コストの見積もりに変更はありません。実験段階(約20年)のITER運転にかかる費用は、年間188kIUA(注2)と見積もられています。除染段階(2037-2042年)及び廃止措置の段階では、それぞれ2億8,100万ユーロ及び5億3,000万ユーロ(2001年基準ユーロ)の費用が計上されています。
注1)機器の製造や輸送は、2020-2021年のCovid-19のパンデミックの影響を受けています。ITER機構は現在、スケジュールに対するあらゆる影響と可能な緩和策を評価しており、現在の技術的課題が評価された後、ITER理事会が検討するための更新ベースラインを作成します。
注2)ITER通貨単位(IUA)はITER協定に基づき、現物調達の価値を各加盟国に公平に配分するために創設された単位です。2022年は1 IUA = 1,822.33 ユーロとなっています。
現在、石油・ガスの価格上昇、低コストの化石燃料の減少、さらに今世紀末までに世界のエネルギー需要が3倍に増加することが予想されています。これにより、エネルギー問題は世界の中心になっています。
それでは、温室効果ガスを増やさずにエネルギーを供給する方法はあるでしょうか?
太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーへの投資は重要です。核融合研究開発と同様に多額の投資をすれば技術が進歩し、技術が進歩すれば価格は低下します。今日のあらゆる分析は、今後数十年間で再生可能エネルギーの重要性が高まることを示しています。
将来の理想的なエネルギーミックスは、一つのエネルギー源に依存するのではなく、さまざまな発電方法を組み合わせることです。核融合の利点は風力や太陽の発電方法では不可能な、カーボンフリーで豊富なエネルギーによるベースロード運転が可能であるなど、追求する価値は多くあります。
核融合コミュニティーは、再生可能エネルギーとの競合は考えていません。むしろ、エネルギーへの依存がますます高まる世界では、人類共通の未来のために有望なあらゆる選択肢を追及することが重要です。
ITER機構は、最新鋭のソフトウェアと業界標準のリスク分析法を使用して、他の大規模プロジェクトと同様にコスト見積もりと関連リスクを管理しています。一般的に、数年にわたって管理される建設プロジェクトは、ある一定の「外部」要因(労働力、建設材料)や「内部」要因(設計におけるインターフェースの複雑化、設計変更、原子力安全当局の要求や検査、製造遅延、技術的な遅れなど)が予算に影響を与える恐れが常にあります。
コスト上昇の可能性を察知するために、ITER機構のコスト見積もりの各作業では、リスク分類システムに従って不確実性のレベルを分類します。次に、作業の価値とそれに伴う不確実性のレベルを分析し、信頼度を予測します。これらの重要なツールにより、管理者はコスト増加の可能性をいち早く察知し、対応することができます。
コスト見積もりの不確実性に伴うリスクをカバーするために、ITER機構は常にコスト削減を追求し、潜在的なコスト増加を相殺できるようにしています。
ITER LICENSING PROCEDURE
ITERの許認可手続き
ITERは、フランスの法律に基づく「原子力基本施設」として認可 されるまでに数年を要しました。
・ITER機構は2010年3月にフランス原子力安全局に予備報告書を提出し、これによりITERの安全ファイルの技術的な審査を開始しました。
・フランス環境当局は、環境アセスメントに関して1997年3月3日のEEC指令97/11/ECで要求されたITERの原子力認可ファイルの意見書を2011年3月23日に提出しました。意見書は好意的でしたが、ITER機構が考慮すべき勧告がいくつかありました。
・2011年6月15日から8月4日まで、ITER建設サイト周辺コミューン(行政単位)で公開審査が行われ、2011年9月9日に調査委員会は好意的な意見を発表しました。
・フランス原子力安全局(ASN)の技術専門家である放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)によるファイルの技術的調査は、2010年夏に開始されました。2011年9月、IRSNはASNが任命した30名の専門家グループ(常設グループ)に、ITER機構への800の質問を含む300ページの報告書を提出しました。専門家グループは2011年末に好意的な報告書を発表しました。
・2012年6月20日、ITER機構はASNから、綿密な技術検査の結果、ITER安全ファイルに記載されているITERの運転条件と設計が、認可プロセスにおいて、現段階で期待される安全要件を満たしていることを書面で通知されました。これを受けて、政令案はASNからフランス政府に伝達され、署名を求められました。
・2012年11月10日、フランスのジャン=マルク・エロー首相は、ITER機構を「原子力基本施設」として認可する正式な政令に署名しました。
・並行して、ITER機構は2012年後半、国内のすべての原子力発電所や研究施設に要請されていた原子力安全ストレス報告書をASNに提出しました。報告書の技術的な内容の検討は、2013年7月にフランスの常任委員会(Groupe Permanent)の定常会合で終了しました。ASNが任命した専門家グループはITER機構に対して、竜巻や雹などの極端な気候条件の対策のみを勧告しました。ITERの耐久性を考えれば、安全性は明らかであるため、この報告書による追加費用は発生しませんでした。
ITERは、2006年のフランス法による原子力技術の透明性と安全性を遵守したフランス初の原子力施設です。核融合装置が原子力規制当局の厳しい審査を経て、原子力認可を取得したのは世界初でした。ITERは核融合の歴史の中で今までにない重要な出来事を成し遂げました。
ITERは2012年に設計に関する綿密な技術審査に基づき、フランスの原子力基本施設(INB)として認可されました。現在、ITERプロジェクトは機器組立、運転の許可を得るために同様の規制上の手続きを行っています。
2017年にはフランス原子力安全局(ASN)と、2025年から2035年の組立と運転の段階的計画について頻繁に意見交換が行われ、この計画は認可手続きに適合していると判断されました。2010年に提出した最初の報告書以降の施設設計のすべての変更を反映するために、予備安全報告書の更新が行われました。
また、ITER機構は、機器組立の許認可に関するASNのホールドポイントに対応するための詳細な安全ファイルを提出しました。
その他に、ファーストプラズマ(及びそれに続く非核フェーズの水素-ヘリウムプラズマ)の開始許可と、重水素-トリチウム運転フェーズに先立ち、施設の試運転をASNに要請します。いずれも、ITER機構は予備安全報告書の更新及び詳細な安全ファイルやその他の安全関連報告書の作成を要求されます。
ITER機構とASN は、2021年5月にITERの機械組立許認可のための安全ファイルが受理されて以来、頻繁にやり取りを行っています。
2022年1月、ITER機構はASNから、ITER機構が2月に予定していた機械組立のホールドポイントの解除を、ASNの追加情報の要求に対して回答するまで延期する、との連絡を受けました。主に下記の4つの分野からの補足情報が要求されています:放射線マップ、真空容器セクター溶接、ソースターム評価、施設全体の質量計算。これらの情報提供の要請は、規制プロセスの通常の一部です。 ITER機構はこのプロセスを尊重し、今回の一連の要求に対して、これまでと同様に、迅速に回答します。
2023年1月更新。TERの認可プロセスに関するやり取りは、真空容器と熱シールドに関する品質の詳細な評価を行うために保留されています(そのトピックについてはこちらとこちらをご覧ください)。ITER機構はこの時間を利用して、ITER研究計画に対する技術的な遅れの影響、ITERの原子力安全実証の進展の可能性、新しいITERのベースラインとの関連における全体的な認可ロードマップの更新など、原子力安全に関する主要トピックの再評価を行う予定です。核融合発電を実現するために、現在の4段階のアプローチを再検討することも検討されています(組立段階と運用段階を組み合わせる可能性もある)。 ITER機構の新機構長は、これらの事項に関してASNと定期的かつ透明性のあるコミュニケーションを行うことを強調しました。
ITERは、世界で初めて国家の許認可当局の原子力認可を受けた核融合装置です。 ITERはこの点で先駆的な存在であり、他の核融合装置も、建設から運転、廃炉に至るまで、認可のあらゆる段階においてITER機構が果たした、この技術的作業の恩恵を受けることになります。
ITER SAFETY
ITERの安全性
1億℃は非常に高い温度ですが、プラズマの密度(1m3あたりの原子数)は空気の約100万分の1と非常に低く、プラズマ中の総エネルギーはそれほど大きくありません。エネルギーの放出が非常に速いため、プラズマに面した炉の一部に表面的な損傷(表面溶融)を与える可能性がありますが、構造的な損傷を与えるほど大きくはありません。
フランスのサン・ポール・レ・デュランス地域で記録された最大規模の地震よりさらに大きい振幅40倍、エネルギー250倍の地震に耐えられるように、ITERの施設は設計されています。トカマク建屋は、特殊な鉄筋コンクリートで作られ、耐震のためのベアリングパッド(支柱)の上に設置されています(この技術は、発電所などの土木建築物を地震のリスクから守るために使用されています)。
浸水のリスクも、ITERの設計と予備安全報告書の両方に組み込まれています。ITER建設サイトの北側でダムが決壊したとしても、浸水する高さの最大予想値とトカマク建屋の一階床の差は30m以上あります。
2011年3月の東日本大震災と津波、福島第一原発事故を受けて、フランス政府はフランス原子力安全局(ASN)に補完的な安全性評価の実施を要請しました。大規模な洪水、安全評価で想定されている以上の巨大地震、またはその両方などの災害を防ぐため、原子力施設以外の施設の安全評価についても要請されました。
ITER機構は、2012年9月15日にフランスの安全当局に原子力安全ストレス報告書を提出しました。報告書の技術的な内容の検討は、2013年7月にフランスの常任委員会(Groupe Permanent)の定常会合で終了しました。
ASNが任命した専門家による常任委員会は、竜巻や雹などの極端な気候条件に関しても対策を取るようITER機構に勧告を提出しました。
ITERの設計ではフランスの規制や慣行に基づき、外部要因による危険性も考慮しています。 ITER機構がフランス当局に提出した予備安全報告書には、航空機の墜落事故などの人為的ミスも含めた外部的脅威を細かく分析しています。
予備安全報告書は、悪意ある行為(テロ行為など)に対しても安全性の証明を目指しています。
トカマク核融合装置で容器内に存在する燃料は、数秒間のプラズマ燃焼を維持するだけの量です。
また、核融合反応を起こすためには、必要な条件を満たし、プラズマ燃焼を維持させることが難しく、条件が崩れるとプラズマは数秒で冷却され、核融合反応が停止します。核融合反応は本質的に安全であり、(核分裂反応のような)制御不能な連鎖反応や爆発の危険性はありません。
2011年の東日本大震災で起きた核分裂炉の事故は、ITERでは起こりえません。その理由は、核分裂炉と核融合炉は物理的にも技術的にも根本的に異なる仕組みで運転しているからです。
核融合炉では、炉内に常に存在する燃料は限られています。ITERの燃料は重水素とトリチウムのプラズマであるガス状の混合物です。
核融合反応を維持するためには、燃料の継続的な供給が必要です。何らかの理由で燃料の供給が途絶えれば、核融合反応はただちに停止するため、メルトダウンや連鎖反応などは起こりません。
さらに、地震により冷却機能が喪失、水冷システムが全壊したとしても、プラズマ閉じ込め障壁には全く影響ありません。また、いかなる状況でも閉じ込め障壁である真空容器が融解温度に達することはありません。
核分裂炉では、停止した後も容器内に存在する何トンもの核燃料の核分裂崩壊による崩壊熱の除去が必要であるため、冷却を続ける必要があります。
しかし、ITERや次世代の核融合発電所では、真空容器内で発生する熱は少ないため、このようなシナリオは起こりえません。仮に、冷却システムが完全に故障し、真空容器内の温度が上がったとしても、真空容器が破損する恐れはありません。
ITERの予備安全報告書は、ITERに影響を及ぼす可能性のあるすべての施設(原子力施設または非原子力施設を含む)が考慮されています。この安全解析の結果によると、ITERは周辺施設で発生した事故の影響を受けないことが示されています。
サイト内のトリチウムの最大量は、フランスの安全当局の規制により4kgを超えることはありません。炉内のトリチウムの量は、運転する上で必要に応じて決定します。
トリチウムは、金属水素化物(金属と化学的に結合したもの)として、金属水素化物ベッドと呼ばれる専用の容器に貯蔵されます。金属水素化物ベッドは、トリチウムの採取が非常に効率的であり、安全にトリチウムを貯蔵することができます。トリチウムは燃料サイクルの運転に必要な量だけがベッドから放出されます。貯蔵ベッドからの損失は、トリチウムの自然放射性崩壊(トリチウムの半分は12.3年ごとに不活性ヘリウムに崩壊する)によるものに限られます。
ITERはトリチウムの閉じ込め方法だけでなく、万が一建屋内に流出した場合も想定して、最先端の除去・回収技術を導入しています。トリチウムの在庫は、トリチウムの追跡手順と定期的な在庫測定によって管理されます。在庫を安全に管理するために、セキュリティ対策が実施されます。
まず、中性子について説明します。中性子は宇宙線が大気の上層部と相互作用することによって自然に生成されます。中性子は発生当初の速さを保ち続けるならば、あっという間に地球の表面まで達してしまいます。
しかし、実際にはほとんどが地上に達する途中で空気中に存在する窒素、酸素、炭素の粒子に衝突し、吸収されて同位体を形成するか、粒子の核の表面で跳ね返ってエネルギーを失ってしまいます。
その結果、「宇宙」中性子のうち、地球表面に到達するのはごくわずかで、1㎡あたり1秒間に約100~300個しかありません。中性子が十分なエネルギーを保持していれば、鉄、ケイ素、カリウムなどの土壌中に存在する元素に吸収されるかもしれません。あるいは、陽子、電子、ニュートリノといったより小さい要素に崩壊します。
中性子はITER内部の核融合反応によっても生成されます。最大出力時には、ITERは1秒間に10の20乗個 (1垓個)ほど の高エネルギーの中性子を発生させます。しかし、核融合によって生まれる中性子は宇宙のような薄い空気中に発生するわけではありません。非常に密度の高い環境で、物理的な障害物に次々と衝突することになります。
ITERで生成された中性子は、遮蔽ブランケットのベリリウム、真空容器の第一壁の高強度の銅やステンレス鋼、生体遮蔽の超高密度のホウ酸コンクリートなどに吸収され、放射線を周辺環境に逃がさないようにします。
しかし、密度が高い素材でできていても、隙間から障壁を通り抜ける中性子はあります。その数は非常に少なく、自然界にもともと存在する中性子と区別がつかないほどになるため心配はいりません。
プラズマ燃焼時、トカマク容器内のトリチウムは、ごくわずかしか消費されません。消費されなかったトリチウムは再利用されるため、トカマク容器から取り出された排気ガスから分離、精製され、貯蔵されます。トリチウムプラズマ運転中における周辺環境及び廃液からのトリチウム除去・回収は、トカマクの核融合性能には影響しません。
ITERではトリチウムは燃焼せずに、トカマク容器から回収システムを通して回収されることを想定して設計しています。
トリチウムの損失を避けるために、さまざまな不測の事態を想定して設計されています。トリチウムを取り扱うエリアには、効率的な静的閉じ込め障壁を設置し、建物内の気圧のカスケードによりトリチウムが外部に拡散されるのを抑制します。
トリチウムが核融合炉に投入される数年前(重水素-重水素運転の初期段階)からは、静的及び動的閉じ込めシステム、並びに放射線及び環境モニタリングシステムを起動することができます。重水素-重水素運転中に発生した少量のトリチウムであっても、除去され、最終的には燃料サイクル処理システムを通じて回収されます。
ITERのトカマク容器が事故により破壊されたとしても、ITER外に放出される放射能物質レベルは非常に低くなるように設計されています。
ITER予備安全報告書では、施設内で事故を引き起こすリスク要因、その結果生じうる事象について分析しています。ITERの通常運転時、最も被ばくする人に及ぼす放射線の影響は、自然界に存在する放射線量の千分の一以下です。
トリチウムプラントの火災のような「最悪のシナリオ」においても、近隣住民の避難やその他の対策は必要ないと報告されています。
トカマクでの核融合反応は本質的に安全です。
核融合を起こすためには、非常に厳しい条件が必要です。プラズマが冷たすぎたり、熱すぎたり、燃料が多すぎたり、少なすぎたり、プラズマ中に汚染物質があったり、磁場が最適でなかったりすると、核融合反応は停止してしまいます。
核融合では放射性物質が発生します。ITERや将来の核融合発電所は、2つのメカニズムにより発生する放射線を管理しなければなりません。
核融合燃料の一つであるトリチウムは、半減期12.3年の水素同位体の放射性物質です。また、核融合反応中に生成される高速中性子は、時間の経過とともに容器の材料構造を放射化させてしまいます。
プラズマ運転中に使用されるトリチウムの量は非常に少なく、一度に数グラム程度です。
トリチウムの取り扱いと閉じ込めのための入念なシステムはすでに開発されており、他の核融合施設や医学、技術でトリチウムの応用が十分に試され、確立されてきました。 トリチウムを取り扱うエリアには、建物内の気圧のカスケードにより、トリチウムの外部への拡散を抑制します。万が一、事故でトカマク内の閉じ込めが破られたとしても、ITER容器の外の放射能レベルは非常に低く保たれます。
ITER予備安全報告書は、ITERの通常運転時、最も被ばくする人に及ぼす放射線の影響は、自然界に存在する放射線量の千分の一以下であることを示しています。トリチウムプラントの火災のような「最悪のシナリオ」であっても、近隣住民の避難やその他の対策は必要ないでしょう。
核融合炉は、核分裂炉とは異なり、高レベル・長寿命の放射性廃棄物を出しません。核融合炉の燃料の「かす」は不活性ガスであるヘリウムです。高速中性子によって内壁材料表面で生成された放射化物は、非常に低レベルの放射性廃棄物から中レベルの放射性廃棄物を生成します。すべての廃棄物は処理され、梱包され、現場で保管されます。この廃棄物に含まれるほとんどの放射性同位元素の半減期は10年未満であるため、100年以内には、材料の放射能は、例えば他の核融合プラントでの使用のために材料をリサイクルできるような本質的な方法で減少させることになります。この100年というタイムテーブルは、現在の核融合研究開発の重要な分野である「低放射化」材料の開発を継続することにより、将来の核融合炉では短縮される可能性があります。
真空容器内の部品、燃料供給システム、冷却システム、保守機器そして建屋の放射化や汚染により、約3万トンの廃炉廃棄物が発生し、それらはITER施設から運び出されて処理されます。
ITER機構は、安全ファイルの綿密な技術検査を経て、2012年11月にフランスの原子力事業者として認可されました。
ITERは、フランスで2006年に「原子力の透明性と安全性に関するフランスの法律」が制定されて以来設立された初の原子力施設です。
ITERは前述の法律を遵守した最初の施設であり、核融合装置の安全性の特性が原子力規制当局の厳しい審査を経て認められ、原子力免許を取得した史上初の施設なのです。
核融合炉にはプルトニウムや高濃縮ウランのような核分裂性物質は存在しません。
ITERでトリチウムを使用しても、大量破壊兵器の製造に加担するようなことはありません。
トリチウムはすでに医学や標識の照明など、産業利用されています。
ITERでは労働安全規制にのっとり、想定されるあらゆる危機に対処するため、統合的な安全管理システムを構築しています。
想定される危機は、部署ごとに適切な安全対策が講じられます。ITERで想定される放射性以外の危険は、火災、磁場・電磁場・化学物質・極低温流体による曝露、高電圧などがあります。作業員を保護するために、運転中はトカマク建屋への立ち入りが厳しく制限されます。
DISRUPTIONS : EVERYTHING YOU WANTED TO KNOW
ディスラプション:知っておきたいこと
物理学者は1960年代からトカマク装置内のプラズマの特性を研究してきました。プラズマ電流、圧力、密度が磁場に対してある一定の境界条件を超えると、プラズマが不安定になることが知られています。この不安定性がディスラプションです。
ディスラプションはプラズマの磁場閉じ込めの劣化や喪失につながります。 プラズマに含まれるエネルギーは大きいため、ディスラプションによる閉じ込めの喪失は、容器内機器に大きな熱負荷を与えるとともに、真空容器内機器、真空壁、トカマク内のコイルを大きく歪ませる可能性があります。
ディスラプション中に発生する大きな電場により、光速に近い速度で移動する電子ビーム(「逃走電子」を含む)が形成されることがあります。それが最終的にプラズマから失われたときに、真空容器内機器に数ミリ程度侵入してしまう可能性があります。
ディスラプションの緩和対策を取らないと、プラズマ対向機器は熱負荷とディスラプション時の逃走電子の衝突により、局所的に損傷を受ける可能性があります。さらには、機器が機械的ひずみにより変形する可能性があります。
ディスラプションはランダムに発生するものではなく、明確な限界を超えたときにのみ発生します。ディスラプションは、現在運転中のトカマクのほとんどで観測されていますが、回避、緩和されています。ITERの目的の一つは、実験を通して安定した運転シナリオを完成させ、ディスラプションを比較的まれな事象にすることです。ITERでは運転開始から数年間、高い確率で意図的にディスラプションを引き起こします。その目的は、プラズマパラメーターを下げ、プラズマエネルギーを低くした状態で、これらのディスラプション事象を解析し、その制御方法を学ぶことです。最大のプラズマ電流とエネルギーの実験で、ディスラプションが機器に損傷を与えないようにします。
適度なプラズマパラメーターでディスラプションを意図的に起こすことで、ITERの運転者は安定性の限界を特定することができます。特定された安定性の範囲内で運転が行われる限り、ITERトカマクのプラズマが、プラズマ電流やプラズマエネルギーの増加に伴いディスラプションを引き起こすことはありません。
ディスラプションについては豊富な研究文献があり、ディスラプションの回避、回避できない場合の影響を緩和するための運転技術について言及されています(特にNucleaer Fusion誌をご参照ください)。
ディスラプションの研究はITER物理の基礎の重要な一部であり、科学コミュニティで広く参照されています(「ITER Physic Basis(ITER物理の基礎)」Nuclear Fusion誌47; 2007年刊、では1999年の最初の報告書を補完している)。ディスラプションは、ITERのために開発されている回避・緩和技術を完成させるために、核融合コニュニティで活発に研究されている分野です。
ヨーロッパのトカマクJET(1983年運転開始)やフランスのトカマクTore Supra(1988年運転開始)は、世界の核融合装置と同様に、安全かつ満足できる方法で運転されてきました。この2つの装置やその他の装置で、新しいプラズマ技術の探索やディスラプションとその緩和策の研究を目的とした運転実験をします。1日に数回の頻度でディスラプションが発生することがありますが、真空容器の破損や破裂に至ったことはありません。
ITERでは、運転中にディスラプションが予想されるため、真空容器と真空容器内の機器は、フルプラズマ性能で約3,000回起きるディスラプションの衝撃に耐えられるように設計されています。ITERのディスラプションに対する耐性は、ITERで採用された値を決定したスケーリング則(「工学法則」)に基づいており、これらの値は他のトカマクの実験で検証されています。
ITERにおいて、ディスラプションが起きても真空容器の安全性に問題はありません。しかし、ディスラプション発生時の高エネルギー負荷は、ダイバータターゲットや第一壁パネルのようなプラズマに面した機器の表面を時間の経過とともに損傷させる可能性があります。そのため、これらの機器は交換できるよう設計されていますが、交換には時間がかかり、ITERの利用可能性を低下させてしまいます。したがって、機器にかかる力とエネルギー負荷を軽減させるディスラプション緩和技術を開発して、機器の交換回数を減らしITERの科学的利用を最適に保つことが重要です。
ITERの段階的な試運転では、核融合エネルギー生成に必要な値よりも低いプラズマ電流とプラズマエネルギーで試験を行います。このようにして、初期学習段階での障害による機器の劣化を最小限に抑えることができます。低電流・低エネルギープラズマから始め、ITERへのディスラプションの影響を回避・緩和する方法を学習し、より高い電流・高エネルギーの高度な(機器に大きな力やエネルギー負荷がかかる)運転に移行させます。
ITERの開発戦略は、既存の最大トカマクであるJETの運転で6-7MA(メガアンペア)のプラズマ電流を達成したことと根本的には変わりません(なお、ITERの公称プラズマ電流は15MAです)。
要するに、ITERはプラズマパルスの約10%までのディスラプションの発生を許容して工学設計されています。ITER初期段階の低エネルギー/低プラズマ電流の段階では、装置に負担を与えることなくディスラプションの特性を把握することができます。ディスラプションの緩和はITERの科学的技術的目的の一つであり、トカマク概念に基づく将来の核融合発電所の開発に直接関連しています。
ITERのディスラプション緩和システム(DMS)は現在設計段階にあります。ITER機構は、ディスラプション緩和のための最良の方法または組み合わせを決定する際に、性能、信頼性、柔軟性、コストを考慮しています。
2つの有望な方法が検討中であり、今後数ヶ月、数年の間にITERのシナリオに合わせてさらに改良されることになるでしょう。長年の開発を経て、閉じ込め容器の壁に負荷が集中する前に、破砕のエネルギーを分散させるためのベースライン技術として、10ミリ秒以内に大量(最大500g)の粒子をプラズマ中に注入する破砕ペレット注入法が選択されました。また、大量ガス注入法はリスク軽減の一環として継続して開発されています。
ITERのディスラプション緩和の研究開発プログラムは現在進行中です。この研究にASDEX Upgrade(ドイツ)、KSTAR、Tore Supra(フランス)、DIII-D(米国)、JET(EU)が参加し、ITERのディスラプション緩和の予測に貢献しています。また、これまで以上に性能が向上しているディスラプションの数値シミュレーションの能力は、ITERのディスラプション緩和戦略の策定にも応用されています。
ITERのディスラプション緩和システムは、プラズマパルス中にディスラプションが発生すると自動的に機能します。専用のセンサーとアルゴリズムがディスラプションの可能性を評価し、起動されます。運転段階では1日に少なくとも10回のパルスが計画されており、そのうちの約10%で障害が発生すると予想されるため、ITERの運転シナリオが開発されている初期段階ではディスラプション緩和システムは日常的に(おそらく毎日)稼働すると言ってもよいでしょう。
ITER AND THE ENVIRONMENT
ITERと環境
核融合炉は、核分裂炉とは異なり、高レベル・長寿命の放射性廃棄物は発生しません。
核融合炉では、燃料の「かす」は不活性ガスであるヘリウムです。高速中性子によって物質表面で生成された放射化物は、極低レベル、低レベル、中レベルの放射性廃棄物に分類されます。すべての廃棄物は処理後、梱包され、現場で保管されます。この廃棄物に含まれるほとんどの放射性同位元素の半減期は10年未満であるため、100年以内には廃棄物中の放射能は再利用(他の核融合プラントで使用など)できるほどに減少するでしょう。この100年という期間は、現在の核融合研究開発の重要な分野である「低放射化」材料の継続的な開発によって、次世代型の核融合装置では短縮される可能性があります。
真空容器内部の機器、燃料回路、冷却システム、保守機器の放射化や汚染により、廃炉時には推定3万トンの廃棄物が発生します。これらの廃棄物はITERの研究施設から運び出され、処理されることになります。
ITER機構は運営者として、運転中の放射性廃棄物の一時保管義務及び最終保管のための財政的な義務を負います。
ホスト国フランスは、廃炉段階と解体に伴う廃棄物の管理を担当します。廃棄物管理の費用は、運転段階でITER機構が支払い、それを参加国が分担します。
また、フランスは運転中の廃棄物の一部を最終処分まで一時的に保管する責任を負います。
ITER建設サイトへの電力は、隣接するCEAカダラッシュ研究施設のTore Supraに供給している送電網より供給されます。
フランスの電力会社RTEは、2012年6月にITER建設サイトに4haのスイッチヤードを建設し、主要送電網への接続を完了させました。
ITERが運転されると、30秒間の電力使用ピーク時に120MWから最大620MWの電力が必要となります。周辺地域の一般の電力利用者への影響はないと予想されています。
水の供給については、ITER運転期間中、年間約300万㎡の水が必要となります。この水は、近くのプロヴァンス運河から取水され、地下トンネルを通ってITER建設サイトに供給されます。ITERに必要な水量は、プロヴァンス運河の流量の1%に過ぎません。
ITER建設サイトとCEAサイトの水需要を合わせても、プロヴァンス運河の総流量の5%以下にとどまります。
WHAT IS THE STATUS OF CONSTRUCTION WORKERS?
ITER建設サイトの労働者の地位
いいえ、そうではありません。
ITERの建設現場で働く労働者は、フランスの法律によって保護されています。フランスの法律では、労働者の「国籍」を問わず、フランスで事業を営むすべての企業に対して、フランスの労働規制である法定の最低賃金の支払いを義務付けています。
さらに、ITER機構はITER協定に基づき、公共及び労働安全衛生に関して適用されるフランスの法律及び規制を遵守しています(ITER機構の法的地位に関する詳細は次の質問をご参照ください。)。労働検査官庁による現場検査は、フランスのすべての大規模建設プロジェクトと同様に、ITER建設サイトでも定期的に実施されています。
また、ITER建設サイトで操業する建設会社は、現地に住んでいない建設労働者に対して、契約上、住宅を提供する義務があります。すべての住宅環境はフランスの規制に厳密に準拠することになっています。
国連、ユネスコ、世界保健機関、国際通貨基金、CERN、インターポールなどと同様に、ITER機構は国際条約によって設立された国際機関です(2006年11月21日にパリでITER協定が7極のITER参加極によって署名されました)。そのため、国際法によって認められた特定の法的地位の恩恵を受けており、敷地、財産、公文書の不可侵性など、ITER機構に一定の権利が与えられています。
特定の領域において、ITER機構はフランスの法律と規則を遵守しなければなりません。ITER協定の第14条は、ITER機構が以下の領域でホスト国(フランス)に適用される法令を遵守しなければならないと規定しています。
・公共及び労働安全衛生
・原子力安全
・放射線防護
・ライセンス
・核物質
・環境保護
・不法行為からの保護
2007年11月7日にフランスとITER機構との間で締結された本部協定では、ITER機構長がフランス当局と協力して、上記の領域で遵守すべきフランスの法令に基づく検査及び管理の枠組みプログラムを確立することが規定されています。
これらと並行して、フランスの法律はITER建設に関わる企業や従業員にも適用されます。この点はフランス国内の他の建設プロジェクトと違いはありません。
先の質問で説明したように、フランスでは法律で、現場の建設労働者を保護しています。受注した企業の国籍や労働者の国籍に関係なく、フランスの労働規則と業種別の労働協約(convections cllectives)が適用されます。
2011年にフランス政府は、ITERプロジェクトに参加する国外の建設会社の義務と責任について、業種ごと、資格レベルごとの給与体系などを詳述したガイドラインを作成しました。これらの規則は、フランス当局によって厳しく管理、適用されています。ITER建設サイトで働くすべての下請け業者は、委託元がITER機構、国内機関のどちらであってもガイドラインのコピーを所持しています。
ITER機構に直接雇用されている職員(30カ国から約1,000人)は、国際機関の特定の体制の下で雇用されており、国際公務員の地位の恩恵を受けています。オフィスビルで働くその他の職員(請負業者、派遣業者等)は、フランスの労働基準法と規則の下で働きます。
ITERプロジェクトのホスト極として、EUはITER建設サイトの39の建屋と技術分野のほぼすべてを建設する責任を負っています。そのため、EU国内機関(Fusion for Energy)は、EUに委託された建設プロジェクトの入札を管理し、関連する契約を(主に欧州企業に)発注する役割を担っています。
Fusion for Energyは、請負企業に対し厳格な資格審査を実施しています。企業は以下のことを証明しなければなりません。。
・法律や規制、行政レベルでの契約要件(最新の保険や社会貢献など)への適合性。
・セキュリティに関する法令や契約上の要求事項への適合性(企業は有効なセキュリティ及び労働衛生方針を提出しなければならない)。
・技術的適合性(請負業者は、要求された仕事を遂行するための技術的能力を持っていることを証明しなければならない)。
これらの条件を満たすことは、Fusion for Energyとの建設契約を希望する企業の必須条件です。Fusion for Energyは契約期間中であれば、いつでも監査権を行使することができます。
EU国内機関の場合には、建設契約書によると下請けは第2次まで認められています。したがって、Fusion for Energyの許可がない限り、受注した工事の一部を第3次に下請けに出すことはできません。これについては、綿密に監視されており、現在まで厳格に遵守されています。
ITERの建設には1,800万人時がかかると試算されています。全ての建屋と技術インフラの責任を担う欧州国内機関によると、2017-2018年のピーク時にはおよそ2,000人の労働者がサイト建設に従事しました。
それと並行して、機械やプラントの組立・設置作業にも多くの労働力が貢献するようになりました。ITER機構、欧州国内機関、契約業者の経営陣、技術陣、監督陣を含む、常時5,000人が作業現場に常駐していると推定されます。(そのほか、スタッフ、IPA、あるいは臨時職員として、1,600人がITER機構に直接所属しています。)
最近の統計(2022年10月)によると、ITERの作業現場には約90カ国が参加しています。ヨーロッパが最も多く、そのなかでも受入れ国でもあるフランスが3,885人となっています。その次にはイタリア人で、421人です。続けてスペイン人が335人、インド人が254人、中国人が214人、ポルトガル人が165人でルーマニア人が119人です。(詳細についてはITER Newslineの最新記事でご確認ください。) 今後数年間は、試験、保全・保守、システム運用のための人員も必要となります。
確実に違います。
上述したように、ITER建設サイトの請負業者及び下請け業者はフランスの法律を遵守しなければなりません。ITER建設サイトのすべての労働者には、少なくともフランスの最低賃金が支払われます。違反した場合、企業は直ちに承認を拒否されます。パートタイム労働者には、労働時間数に応じて、法定のフルタイム賃金の日割り計算で支払われます。
ITER機構とフランス労働検査官庁の協力方法は、フランス政府とITER機構との間で締結された本部協定及び労働安全衛生に関する現地労働検査に関連する追加議定書に規定されています。フランスの労働検査官は、本部協定の第3条及び年間検査プログラムに規定されているように、抜き打ち検査を実施することができます。ITER機構は労働検査官に恒久的な施設立ち入り許可証を提供しています。
さらに、2013年2月1日、ITER機関はフランスの社会保障機関URSSAF PACAとパートナーシップ協定を締結しました。これにより、ITER機構は、情報、教育、検査を通じたITER建設サイトでの違法労働行為の防止を強化すると誓いました。URSSAF PACAは、ITER建設に関わるすべての企業を対象に、労働法規制に関する情報・研修会を開催し、定期的に検査を実施します。
ITER機構は、ITER建設サイトに適用されるアクセス規則に基づき、URSSAFに全面的に協力しています。
ITER機構は、URSSAFが計画する査察の事前通知を受け、受け入れの準備をします。しかし、この査察は請負業者には事前通知されません。
フランス当局が現場の労働条件を管理することは、ITER機構とプロジェクト全体の利益になります。
EU国内機関(Fusion for Energy)の工事契約は、建設業界の国際標準化団体であるFIDIC条件に基づいています。請負業者は、契約金額の10%の範囲内で前払いを求めることができます。契約書には、残りの支払金額と支払い条件が明記された支払い予定表が添付されます。
各請負業者は、建設現場の管理を担当する技術者に毎月見積書を提出します。見積書には請求予定額の詳細と工事の進捗を証明が記載されています。担当技術者は工事に関連した支払い金額を証明し、請負業者がFusion for Energyに請求書を提出時に使用する支払証明書を発行します。なお、受注者の義務違反など極端な場合を除いて、支払い証明書発行の遅延は許されません。
契約条件に基づき、Fusion for Energyは契約者の請求書の受領後(通常は45日以内)に指定された金額を支払います。支払いが遅れた場合、契約者には遅延利息が発生します。さらに、Fusion for Energyの作業契約書には、請負業者が下請け業者に支払うべき金額の全責任を負うことが明記されています。
現地に住んでいない労働者の住宅と交通手段の手配は、契約上の義務によりITER建設サイトで事業を行う企業が担います。
フランスITER担当機関(Agence Iter France)、地方自治体、地域の政府機関は、ITER建設サイトから車で30分以内にある住宅の空き情報や造成計画を提供しています。企業は開発中のプロジェクトに貢献することが奨励されています。
すべての住宅環境の品質は、フランスの規制に厳密に準拠しなければなりません。
CEA-カダラッシュとITER建設サイト周辺の混雑を最小限に抑えるためには、公共交通網の増加、相乗り、ITER建設サイト作業員の出退勤時間の分散化などが重要です。また、インフラ整備も検討中です。