吉川允二記念核融合エネルギー奨励賞は、ITER計画や幅広いアプローチ(BA)活動などに代表される核融合エネルギーの実現に寄与しうる国内外の研究・技術開発活動、調査活動、社会連携・貢献活動等の中で、若手人材による優れた成果を顕彰するものです。下記の活動分野、
①ITERやBAに直接関わる研究・技術開発活動など
②上記以外で核融合エネルギーの実現に必要な研究・技術開発活動、または将来これらの研究・技術開発に寄与すると見込まれる基礎的・基盤的な研究・技術開発活動など
③長期的な視野に立って核融合エネルギーの実用化や核融合を応用したエネルギー環境問題の解決に向けたシナリオ作成に寄与する調査研究活動など
④核融合エネルギーや関連する社会との連携・貢献、教育、広報、啓発活動など
に対し、2022年度は、9件の応募がありました(分野①:1件、分野②:8件)。選考委員会において厳正な審査を行い、調整委員会は授賞候補5件(分野①:1件、分野②:4件)を推薦することとし、運営会議で優秀賞1件と奨励賞4件が決定されました。
2022年度の選考委員は次の方々です(敬称略)。
花田 和明(委員長、九州大学)、江尻 晶(東京大学)、柳 長門(核融合科学研究所)、神谷 健作(量子科学技術研究開発機構)、片山 一成(九州大学)、矢木 雅敏(量子科学技術研究開発機構)以上6名
優秀賞
松山 顕之 氏(量子科学技術研究開発機構)
「ディスラプション統合モデリング研究の開拓」
我が国の核融合原型炉の主案であるトカマク型核融合炉にとってディスラプション対策は不可避である。受賞者は、原子分子反応等のミクロな物理からコアプラズマ由来のマクロな電磁流体現象までの複数の時空間スケールにまたがる階層的な現象であるディスラプションに対して、要素物理をモデル化し、流体シミュレーションや輸送シミュレーションに統合し、ディスラプション現象全体を模擬する統合モデリング研究を実施している。開発されたコードはITERでのディスラプション緩和装置のレビューにも引用され、性能分析にも活用される等、高く評価されている。開発されたシミュレーションは米国DIII-D装置で活用されているほか、欧州のJETや韓国のKSTARでの使用が準備されており、JT-60SAではスタートアップ時の高速電子生成への応用も進められるなど幅広い分野へ適用範囲を広げている点で将来性も期待される。以上から優秀賞に値すると判断した。
優秀賞
松山 顕之 氏
この度は、吉川允二記念核融合エネルギー奨励賞をいただきまして、誠にありがとうございます。受賞の対象となりました研究は、QST六ヶ所研でおよそ10年にわたり取り組んできましたトカマク型核融合実験装置における突発的な崩壊現象であるディスラプションに関するものです。特に2018年からITER Disruption Mitigation System Task Forceに携わり、イーター機構及び関係各所の研究者と議論したことが本研究を発展させる契機となりました。この場を借りて関係各位にお礼申し上げます。今後も現在の研究を更に発展させるとともに、また新たな課題にもチャレンジしていきたいと考えております。今後ともご指導の程よろしくお願い申し上げます。
奨励賞
小柳 孝彰 氏(Oak Ridge National Laboratory)
「耐照射特性に優れた炭化ケイ素複合材料の開発」
14MeV中性子や高熱負荷に曝される核融合炉環境に適用可能な材料の開発は極めて重要な課題である。受賞者は、優れた耐久性、低放射化、高熱負荷耐性を持つ炭化シリコン(SiC)を基盤とした材料開発に取り組み、SiC/SiC複合材料の機械特性の照射低下の原因究明および複合材料形成プロセスの改良により照射耐性の向上に貢献した。結果として、核融合炉の高温運転ブランケットの構造材料やプラズマ対向壁の冷却パイプの材料候補になるなど高く評価され、多くの核融合関連機器の候補材料として取り上げられるようになった。今後は核変換やエネルギーの高い中性子照射によるヘリウム生成の効果を取り込んだ検討を行うことでより核融合炉環境適合性の高いSiC基盤材料の開発を目指している点で将来性も期待できる。以上から奨励賞に値すると判断した。
奨励賞
小柳 孝彰 氏
この度は、栄誉ある賞を頂きまして誠に有難う御座います。私は、これまで、ブランケット材料の研究、主に炭化ケイ素複合材料の研究をしてまいりました。これまでの、オークリッジでの研究、日米の国際協力での活動が評価されたとのことで、大変ありがたく思うとともに、共同研究者や関係者の方々の協力に感謝しています。現在、アメリカでは、核融合研究が盛り上がりを見せており、プラズマ閉じ込めに加えて、材料関係の開発の重要性がより認知されるようになり、今後10年の核融合材料研究が将来の核融合エネルギーの実現に重要になってくると認識しています。また所内では、論文等のサイエンスインパクトを生み出すことがより求められており、材料研究分野への基礎研究における貢献と、核融合エンジニアリングにおける役割の両方が担えるように活動していこうと考えている所存です。現在、日米FRONTIER共同研究のアメリカ側のタスクリーダーをしており、今後とも日本の方々と関わる機会が多くあると思います。この賞に恥じないように研究活動に精進したいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
奨励賞
隅田 脩平 氏(量子科学技術研究開発機構)
「核融合プラズマにおけるイオンサイクロトロン放射機構の解明」
重水素(D)-トリチウム(T)核融合反応において発生する高速アルファ粒子の閉じ込めはアルファ加熱が主な加熱源となる核融合炉の成立性に大きな影響を与える。受賞者は、磁気ループ等の簡便かつ核融合炉に適用可能な方法で計測できるイオンサイクロトロン放射(ICE)に着目し、JT-60U実験においてその励起が磁気音波型サイクロトロン不安定性に起因することを見出すとともに、遅波型の励起も存在することを明らかにした。その結果として、国際トカマク物理活動の高エネルギー粒子トピカルグループで高速イオンの計測法としてICEが注目される等、高く評価されている。今後はJT-60SAでのDD実験やJETでのDT実験に適用することでICEを駆動する速度分布を検証し、ITERでの高速アルファ粒子の計測に供することを志向している点も期待できる。以上から奨励賞に値すると判断した。
奨励賞
隅田 脩平 氏
この度は栄誉ある賞を授与いただき、大変光栄に存じます。本研究はJT-60Uの実験データを基に私が学生時代から続けてきたものです。長期に渡って、沢山の先生や共同研究者、関係者の皆様から多大なご指導やご助言をいただきましたことを心より感謝いたします。本研究では、イオンサイクロトロン放射(ICE)と呼ばれる、高速イオンが高周波を励起する現象の励起機構を検証してきました。駆動源となる高速イオンの速度分布や、高周波の分散関係を調べることで、核融合反応や中性粒子ビームによる高速イオンが駆動するICEの励起機構の一端をそれぞれ明らかにしてきました。このICEは核融合炉でより一層重要となる、アルファ粒子などの高速イオンの計測に利用できると期待されています。ICEを用いた計測手法の確立に不可欠な、励起機構の理解に貢献でき非常に幸運でした。今後はITERでのICEを用いたアルファ粒子等の計測に向けてJT-60SAやJETにおいても検証を進めると共に、ICEの研究経験を活かし高速イオンが関連する幅広い研究課題に対しても挑戦していきたいと考えております。引き続き、ご指導ご鞭撻いただけますと大変嬉しく存じます。
奨励賞
小林 真 氏(核融合科学研究所)
「核融合炉ブランケットにおける中性子・トリチウム移行と計測・安全管理に関する工学研究」
重水素(D)-トリチウム(T)核融合反応において発生する高速中性子がブランケット内でTを増殖・回収することで核融合炉運転が維持されるため、T移行挙動の把握は重要である。受賞者は、中性子輸送計算、中性子分布測定法の開発、実時間トリチウム生成速度 検出器開発、固体トリチウム増殖材中における照射欠陥を含んだトリチウム移行現象の体系化を行うことで確度の高い予測が可能となる技術を開発した。この中で、実験で問題となっていたT移行に大きく関与する照射欠陥がダングリングボンドを有する酸素原子であることを世界で初めて明らかにした。結果として実験で得られたトリチウム脱離挙動をモデルで再現することに成功したことは高く評価できる。今後は、安全性にかかわるT循環の全体挙動把握を行おうとしている点も期待できる。以上から奨励賞に値すると判断した。
奨励賞
小林 真 氏
この度は、栄誉ある吉川允二記念核融合エネルギー奨励賞を授与いただき誠にありがとうございます。これまで指導して下さった先生、国内外の共同研究者、そして学生の皆様に感謝申し上げます。授賞の対象となった「核融合炉ブランケットにおける中性子・トリチウム移行と計測・安全管理に関する工学研究」は、中性子により核融合炉ブランケット内の固体トリチウム増殖材中に生成する照射欠陥とトリチウムの相互作用を含んだトリチウム移行現象研究、ブランケット内の中性子束分布やトリチウム発生量の実時間・その場計測及び安全管理手法の開発について総合的に行った研究であります。本研究は、材料分析や中性子照射など、様々な装置を必要とする研究であり、国内外の共同研究者の皆様の支えにより実施できたと改めて実感しております。また、研究だけでなく、大型ヘリカル実験装置での重水素プラズマ実験に係る放射線計測や管理、前職における環境放射線分析や原子力規制に関する業務も含め、これまでの経験や仕事の積み重ねが結実したと思うと感慨深く感じます。本受賞を励みとして、今後も国内外の研究者の皆様と連携し、研究に精進してまいりたいと思います。引き続き、指導ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
奨励賞
田辺 博士 氏(東京大学)
「NBIフリーイオン温度計測を用いたセンターソレノイドフリー立ち上げシナリオの研究」
水素同位体である重水素(D)とトリチウム(T)が熱核融合反応を起こすためには高いイオン温度が必要であり、イオン温度の測定は核融合炉の成立性に直接かかわる重要な情報を提供する。受賞者は、これまで実績のある中性粒子ビーム(NBI)からの荷電交換発光によるイオン温度計測とは異なり、発光分布を波長ごとに2次元面で再構成することでイオン温度を計測するドップラー・トモグラフィーを開発し、イオン温度の2次元分布計測を実現した。同手法を用いてプラズマ合体時の急速イオン加熱の機構の解明を行い、プラズマ合体法の有効性を確認している。またプラズマ合体実験を実施している英国のMASTやST-40にも同手法を適用しイオン温度の計測を行うなど、開発した手法を多くの実験機器に供している点も高く評価できる。以上から奨励賞に値すると判断した。
奨励賞
田辺 博士 氏
この度はこのような歴史ある賞を賜りまして誠にありがとうございます。評価委員の先生方、ご推挙いただいた先生方ならびに、学会や共同研究先等でお世話になった皆様に深く感謝申し上げます。民間核融合部門で近年注目されるトカマクエナジーST40やカラム研究所MASTと連携して進めてまいりました合体生成球状トカマク実験、NBIフリーイオン温度計測の現地建設を含めた実務共同研究の研究活動を評価いただき大変うれしく思います。今回受賞式はリモート参加となってしまいましたが、ちょうど2月からトカマクエナジーに長期派遣の途上でございまして、東京大学で実績を上げたマルチスリット型の2次元96CHイオンドップラートモグラフィ計測応用に必要なポート確保のめどがたち、アップグレード機材を直接現地に持ち込んで実機建設作業を現在進めているところで、プラズマ加熱シナリオを詳細に評価できる「目」を確立した上でさらなるシナリオ最適化研究を進めていく予定です。球状トカマクの分野はまだまだ小型中型の装置が多い分野となりますが、2022年にようやくトカマクヘリカルに並ぶ1億度の分野に参入がすすんできたところで、本賞の受賞を励みに今後より一層精力的に活動を進めさせていただければと存じます。今後ともご指導お鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。