太陽が執筆!ITER Japan ニュース

こんにちは!天野 太陽です。ITERマンガVol.8は楽しんでいただけましたか?
お待たせしました!僕が執筆したITER Japan ニュースをどうぞご覧ください。
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太陽がインタビュー!エネルギーの未来を拓く「地上の太陽」
― JT-60SAとITERが描くフュージョンの挑戦 ―
「エネルギー」とは何か
― 化石燃料と核融合(フュージョン)エネルギーの違い
最近、「脱炭素社会」や「再エネ」など、エネルギーをめぐる話題をよく耳にします。
そもそも、エネルギーってどんな種類があるのでしょうか?


エネルギー源は大きく「化石エネルギー」と「非化石エネルギー」に分類され、
「核融合(フュージョン)エネルギー」は、非化石エネルギーに属します。
石油や石炭、天然ガスといった化石燃料は燃焼によって化学エネルギーを取り出します。手軽で信頼性が高い一方、二酸化炭素(CO2)の排出が避けられず、地球温暖化の要因にもなっています。

そのため今は、脱炭素社会の実現という課題が国際的に突きつけられています。
再生可能エネルギーの拡大が進められてはいますが、天候などの影響で出力が安定しない面もあります。一方で、原子力発電の再稼働も検討されていますが、安全性や社会的受容性の面から慎重な議論が続いています。結局のところ、「安定供給」と「環境負荷の低減」をどう両立するか…、これが私たち人類の大きな課題なんです!

そこで注目されているのが、核融合(フュージョン)エネルギー!
私たちは今、太陽の中で起きている核融合反応を手がかりに、未来を担うエネルギーとして、地上で核融合を実現しようとしています。
「太陽のエネルギーを地上でつくる」――まさにロマンですね!

「地上の太陽」 ― 核融合が持つ圧倒的な可能性

核融合は、水素の仲間である重水素や三重水素(トリチウム)といった軽い原子核を融合させ、ヘリウムをつくり出す反応です。その際、ほんのわずかな質量が失われ、その分がアインシュタインの式「E=mc2」に従って莫大なエネルギーに変わります。
燃料1グラムで、石油8トン分のエネルギーが得られるんですよ。

しかも、その燃料は海水から取り出せます。
ほぼ無尽蔵で、CO2を出さず、暴走の危険がなく、放射性廃棄物もごく少ない。
人類が長く求めてきた、持続可能な究極のエネルギーなんです。
でも、なぜ今まで実現できなかったんですか?


それは、原子核を融合させるのは、とても難しいからです。
原子核同士をくっつけるには、プラスの電荷を持つ核同士の反発を超えるために、数億度もの超高温が必要になります。その状態の物質は「プラズマ」と呼ばれる、物質の第4の状態です。固体、液体、気体のどれでもなく、電気を帯びた粒子(イオンと電子)が自由に動き回る状態です。蛍光灯の光やオーロラ、そして太陽も、すべてプラズマなんですよ。

問題は、この超高温のプラズマを壊さず、容器に触れさせずに安定して閉じ込める技術です。
それを可能にするのが「磁場閉じ込め方式」。ドーナツ状の磁力線の中にプラズマを浮かせて、容器に触れずに維持する――これが私たちのJT-60SAやITERが採用している仕組みなんです。
JT-60SA ― ITERとともに未来へ走る
その核融合実験の主役が、JT-60SAとITERなんですね


ええ。フランス南部で建設中のITER(イーター)は、国際協力による実験炉です。
実際にフュージョン反応を起こし、投入したエネルギーの10倍のフュージョンエネルギーを発生させることを目指しています。

そして日本のJT-60SAは、そのITERを支える装置です。
ITERでは実施できない補完的な研究や、ITERの技術課題の先行検証を行う“サテライト・トカマク”。ITERを支えるもう一つのエンジンなんです。
(【参考】JT-60SA計画とは)

例えるなら――
JT-60SAが自転車の前輪、ITERが後輪。
この2つがバランスをとりながら、未来の「原型炉」というゴールに向かって進んでいます。どちらも欠かせない存在で、両輪がそろって初めて前に進むんです。
前輪が道を切り開き、後輪が力強く進む――
まさに日本と世界が協力して未来へ走っているわけですね!

JT-60SAが自転車の前輪、ITERが後輪
試験中断と再起動 ― 技術的困難を超えて
JT-60SAは順調に進んでいるように見えますが、実は試験が一度中断したと聞きました。


そうなんです。
2020年に装置が完成したのですが、2021年、統合試験運転中に超伝導コイルの絶縁損傷が発生し、試験を中断しました。

原因を調査すると、コイルの接続部で電気絶縁の一部が損傷していることがわかりました。
修復には約2年を要しましたが、その間、より安定な運転ができるように、絶縁性能の補強、絶縁性能を確認する新たな検査手法の開発や、異常を即座に検知して電流を遮断するインターロック機構の強化など、次につながる改良を積み重ねました。

そして2023年、すべてを改善したうえで統合試験を再開。
その年の10月、ついに初(ファースト)プラズマに成功しました!
困難を乗り越えたからこそ、その光は格別に美しかったですね。
初プラズマの瞬間 ― 宮崎が“地上の太陽”を志した日
宮崎さんがこの道を志したのも、ファーストプラズマを見た経験がきっかけだそうですね。


はい。学生時代、那珂研でファーストプラズマの瞬間を見学しました。
カウントダウンの後、真っ暗な画面に青紫の光がふっと灯って――その光を見た瞬間、「これが地上の太陽か…!!」と鳥肌が立ちました。
あの感動が忘れられず、私はプラズマ物理の道に進みました。
まさに人生を変えた光だったんですね。

JT-60SA 初プラズマ/First plasma(2023年10月23日17:30)
次のステージへ
― フュージョンエネルギー実現に向けて

現在、JT-60SAは「装置増力改修」の段階にあります。
(【参考】JT-60SA最新情報 |増力作業)
より高温・高密度なプラズマをもっと長く維持するため、加熱装置や冷却システムを強化中です。
この先には、核融合反応を伴う本格的な実験が控えています。

JT-60SAの内部では、高温・高真空・高磁場・極低温という“極限の環境”が共存しています。
まさに“小宇宙”と呼ぶにふさわしい装置です。
この挑戦を通じて、ITER、そして将来の原型炉につながる知見を積み重ねています。
おわりに ― “地上の太陽”はもう輝き始めている
核融合は、エネルギーの枠を超えた、人類の知恵と希望の象徴ですね。


ええ。究極のエネルギーを自在に操る技術は、究極の知の結晶です。
JT-60SAとITER、2つの車輪が未来へと走り続けています。

あの日見た青紫の光を、今度は世界中の人々の未来につなげたい。
それが、私たち研究者の使命です。
ITERとJT-60SAを比べてみよう!
ITERとJT-60SAの違い
ITERは、核融合発電の実証実験を行う「本番」の装置。
JT-60SAは、ITERの準備やサポートをするための「研究用」の装置。ITERと同じ形で高い性能を持つプラズマ運転を行い、その成果の反映や、ITER計画をはじめとする核融合研究を主導する研究者・技術者の育成を行います。
ITERの成功には、JT-60SAの成果が重要になってくるため、どちらも核融合発電の実現に向けて大きな役割を果たしています!
| 名称 | ITER (イーター) |
|---|---|
| 正式名称 | ITER |
| 建設地 | フランス サン・ポール・レ・デュランス市 |
| プロジェクトの枠組み | イーター事業の共同による実施のためのイーター国際核融合エネルギー機構の設立に関する協定 (略称:イーター協定) 参加極:EU、日本、アメリカ、ロシア、中国、韓国、インドの7極 |
| 目的 | 核融合発電に必要な「エネルギー増倍率10(Q=10)」を達成する実験 |
| 技術の役割 | 実際に核融合でエネルギーを発生させ、発電の実現性を確認 |
| プラズマ温度 | 約1.5億℃ |
| 磁場閉じ込め方式 | トカマク方式(超伝導コイル使用) |
| 燃料 | 重水素+三重水素(D-T燃料) |
| エネルギー増倍率(Q値) | Q=10(投入エネルギーの10倍の出力)を目標 |
| 運転開始 | 2034年 研究運転の開始(SRO) |
| 装置の大きさ | 高さ 30m / プラズマ半径 6.2m ![]() ![]() |
| 最終的な目標 | 核融合エネルギーの実用化に向けた決定的実証 (燃焼プラズマの実現) |
| 公式Webサイト | ITER機構 https://www.iter.org/ ITER日本国内機関 https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/index.html |
| 名称 | JT-60SA (ジェイティーロクジュウエスエー) |
|---|---|
| 正式名称 | JAERI Tokamak-60 Super Advanced |
| 建設地 | 日本 茨城県那珂市 |
| プロジェクトの枠組み | 幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画 |
| 目的 | ITER支援、原型炉先導、人材育成 |
| 技術の役割 | ITERや将来の核融合炉で必要な技術やプラズマ制御の研究 |
| プラズマ温度 | 約1~2億℃ |
| 磁場閉じ込め方式 | トカマク方式(超伝導コイル使用) |
| 燃料 | 重水素のみ(D-D燃料) |
| エネルギー増倍率(Q値) | Q~1(実際の燃料を使用した場合) |
| 運転開始 | 2023年(初プラズマ達成) |
| 装置の大きさ | 高さ 15m / プラズマ半径 3m ![]() ![]() |
| 最終的な目標 | ITERの支援と、将来の核融合炉技術の開発 |
| 公式Webサイト | 先進プラズマ研究開発 https://www.qst.go.jp/site/jt60/ JT-60SA(英語) https://www.jt60sa.org/wp/ |
QST、量子エネルギー研究分野、那珂研、ITER日本国内機関ってどんな関係?
国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)について
QSTは、2016年(平成28年)に日本原子力研究開発機構(JAEA)の核融合研究開発を担ってきた部門などと放射線医学総合研究所(NIRS)が統合して設立された国立研究開発法人で、量子科学や放射線、核融合エネルギーなど、最先端の科学技術を幅広く研究しています(QST|成り立ち・沿革 )。
発足後の第1期(平成28年度〜令和4年度)は「調和ある多様性の創造」を理念として研究を進めてきました。令和5年度から始まった第2期では、その土台をさらに強くし、社会が求める成果を生み出すことを目指しています。
QSTは、全国に7つの研究拠点(六ケ所、仙台、那珂、高崎、千葉、木津、播磨)を持ち、そこにある 7つの研究所、1つのセンター、1つの病院 がそれぞれ専門分野の研究や国際プロジェクトを進めています。量子科学技術基盤に立脚した4つの研究分野、量子技術イノベーション研究分野、量子医学・医療研究分野、量子エネルギー研究分野、量子ビーム科学研究分野を中心に先進的かつ独創的な研究開発を推進します。
QSTパンフレットは「QST|刊行物/データベース」ページよりご覧ください。
QSTの研究所と主な量子科学技術基盤施設・装置(QST|研究開発体制 より)
量子エネルギー研究分野について
QSTの中にはいくつかの研究分野がありますが、核融合エネルギーの研究を担当しているのが「量子エネルギー研究分野」です。那珂フュージョン科学技術研究所(那珂研)も 六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(六ヶ所研)も、この「量子エネルギー研究分野」に属していて、核融合発電の実現に向けた研究開発を行っています。
QSTでは、実際に電気を生み出す「原型炉」の実現を目指し、次の3つの段階に分けた開発計画を提案しています。
① 発電実証フェーズ:フュージョン反応による発電を確認
② 燃料増殖実証フェーズ:燃料を自ら生み出しながら運転する技術を検証
③ 定常運転実証フェーズ:安定して長時間運転できることを実証
この計画では、国際プロジェクト「ITER」で培われた製作技術や運転の知見、日本が誇る実験装置「JT-60SA」で得られた成果、さらには発電に不可欠な最新の機器開発成果などを最大限に活用していきます。
那珂研と六ヶ所研を横断して設置されたフュージョンエネルギー推進戦略室を中心に、研究開発の方向性を明確にしながら、産業界との連携も強化しています。「J-Fusion」をはじめとした企業との協力を深め、研究分野全体が一体となって、フュージョンエネルギーの早期実現を目指して取り組んでいます。
量子エネルギー研究分野、那珂研、ITER、JT-60SAのパンフレットは
以下のWebページに掲載しています。
【参考】QST|量子エネルギー研究分野 パンフレット
那珂フュージョン科学技術研究所(那珂研)について
那珂フュージョン科学技術研究所(那珂研)は、国の研究機関の一つで、太陽の中で起きている「核融合反応」を地上で再現し、エネルギーとして利用するための研究を行っています。核融合で生まれる「フュージョンエネルギー」は、二酸化炭素を出さず、必要に応じてすぐ反応を止められるので安全性が高く、使う燃料も豊富にあります。そのため、将来の重要なエネルギー源として期待されており、2050年のカーボンニュートラルを目指す国の戦略にも位置づけられています。
那珂研は、茨城県那珂市で1979年から整備が進み、1985年の実験開始とともに正式に発足しました。これまでに、イオン温度5.2億度やエネルギー増倍率1.25といった世界的にも高い成果を上げ、核融合研究をリードしてきました。
現在、那珂研は国際プロジェクト「ITER(イーター)」に日本の国内機関として参加し、主要な設備の調達を担当しています。日本の多くの企業の技術を集めて進められている取り組みです。
また、日欧共同の「幅広いアプローチ(Broader Approach=BA)活動」の一つである「JT-60SA」計画も進めています。JT-60SAでは、ITERに先行して実験を行い、プラズマ(核融合を起こす高温の電離ガス)の形を変えて性能を比較するなど、将来の経済的で高性能な核融合発電炉づくりに役立つ研究を進めています。
こうしたITERやJT-60SAで得られた技術は、六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(六ヶ所研)が進める「ブランケットシステム」(核融合で発電するために必要な装置)の研究成果と合わせて、将来、発電を実証する「原型炉」を作るための基盤となります。
那珂研は、六ヶ所研と協力しながら、ITER計画やBA活動を進め、国際的な研究開発拠点としてフュージョンエネルギーの実現を目指していきます。
ITER日本国内機関について
ITER計画ではITERに参加する加盟極に国内機関を設置しています。 QSTはITER日本国内機関(ITER Japan Domestic Agency, JADA)として日本政府から指定を受け、ITERに必要な超伝導コイルなどの機器(装置)の調達・ITER建設サイトへの物納およびITER機構でプロジェクトに参加する人材の派遣を行っています。
【参考】ITER日本国内機関について
幅広いアプローチ(BA)活動について
幅広いアプローチ(Broader Approach=BA)活動とは、欧州連合(EU)と日本が協力して進める、核融合エネルギーの早期実用化を目指した国際的研究開発活動です。
2007年6月1日に発効した「幅広いアプローチ協定」に基づき、ITER計画を補完しつつ、将来の核融合原型炉(DEMO)による発電実証に向けた研究・技術開発を加速することを目的としています。
BA活動では、日本とEUが同等の資金を拠出し、EU側はベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどの加盟国が研究に必要な人材や設備を提供しています。
活動はすべて日本国内で実施され、
①国際核融合材料照射施設(IFMIF)の工学実証
・工学設計活動(EVEDA)、
②国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)、
③サテライト・トカマク計画(JT-60SA) の三つのプロジェクトから構成されています。
これらの取り組みを通じて、ITERで得られる成果を効率的に活用・補完するとともに、耐久性の高い材料開発や先進的なプラズマ実験、DEMOに向けた予備研究を進め、核融合エネルギーの実現に向けた基盤整備を行っています。
【参考】
欧州委員会(European Commission)|
The Broader Approach(英語)
QST|BA(幅広いアプローチ)_幅広いアプローチ活動の概要・目的
JT-60SAについて
JT-60SA(JT-60 Super Advanced、ジェーティーロクジュウ スーパー アドバンス)は、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置です。
幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として建設されました。JT-60SAの目的は、ITERの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたITERの補完研究、人材育成です。
JT-60SAでは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用して磁場のかごを作り、1億℃にも達するプラズマを閉じ込めます。「トカマク型」とは、この磁場によりプラズマを閉じ込める方式の一つで、超伝導コイルを組み合わせ、周方向のトロイダル磁場、径方向のポロイダル磁場を組み合わせ、ドーナツ形の形に沿ってねじれた形の磁場を作ります。ITERもトカマク型の装置です。
JT-60SA装置 説明図(QST|JT-60SA計画とは より)
編集後記
核融合は「分裂」ではなく「融合」、
物質を結びつけることで生まれる、新しいエネルギーのかたち。
脱炭素も安定した電力も、どちらもあきらめない。
那珂で見た静かな光は、そんな欲張りな未来をちゃんと照らしていました。
(執筆者:天野 太陽)
量子科学技術研究開発機構
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