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ITER模型で体感する“フュージョン(核融合)炉のスケール”
―JT-60SAとの比較展示と製作ストーリー

 2026年2月、那珂フュージョン科学技術研究所(以下、那珂研)内のJT-60制御棟の玄関ホールにITERの1/25スケールモデル(木製)を設置しました。本モデルは、那珂研で実験が進められているJT-60SA模型の同一スケール模型で、並べて展示することで、両者の大きさの違いを直感的に比較できるものとなっています。

JT-60制御棟の玄関ホールに展示したJT-60SA模型とITER模型

 ITERのTFコイルは、実機ではコイル同士が連結される複雑な構造を持ちますが、本モデルでは全体の理解を優先し、その一部を簡略化しています。
それでも、JT-60SAとの対比により、ITERのスケールの大きさを十分に感じていただけます。

 さらに、フュージョンエネルギーの取り出しに重要な役割を担うブランケット(中性子遮蔽体)を真空容器の内面に設置しています。形状は実機をそのまま再現したものではありませんが、50万kWのフュージョンエネルギー生成を目指すITERの特徴を理解する手がかりとなります。

 本模型を製作したのは、QSTアソシエイトであり文部科学省 科学技術教育アドバイザーを務める池田佳隆氏です。
池田氏は、那珂研の見学者に時々、フュージョン研究について説明を行っており、来訪者に「わかりやすく伝える」ことを常に意識しています。
これまでにJT-60SA模型を製作しており、今回のITER模型はその経験を踏まえて新たに製作したものです。見学者がフュージョン装置のスケールや構造を直感的に理解できるよう、細部にわたり工夫が施されています。
本展示を通じて、ITERとJT-60SAの違いだけでなく、フュージョンエネルギーの取出しの仕組みや将来性について、より身近に感じていただければ幸いです。

【参考】池田氏が参考にしたCADデータは以下
ITER機構|Make your own tokamak with 3D printing!



【池田佳隆氏プロフィール】

池田佳隆氏は、日本のフュージョン(核融合)研究分野において長年にわたり中心的な役割を担ってきた研究者です。量子科学技術研究開発機構(QST)において、六ヶ所研所長、那珂研所長、量子エネルギー部門長などを歴任し、2023年3月にQSTを定年退職しましたが、現在は、QSTアソシエイトとして現役の活動支援をするとともに、文部科学省の科学技術教育アドバイザーを務め、科学技術人材の育成および教育の推進に取り組んでいます。



QSTアソシエイト・池田氏インタビュー:ITER模型に込めた「伝える力」
ドーナツ状の巨大装置の中で、太陽と同じ反応が起きる——。
そんなフュージョン(核融合)の世界を、“目で見て理解できる形”にした模型が完成した

インタビュー日:2026年3月17日

本日は、製作された模型について教えてください。

皆さんこんにちは。QSTアソシエイトの池田です。
今日は、私が製作したITERの模型をご紹介します。

現在フランスで建設が進んでいるITERを、公開データをもとに、できるだけ実物に近づけて再現しました。人と並べると、その大きさも実感していただけると思います。

この模型の一番の目的は、「フュージョンの仕組みを直感的に理解してもらうこと」です。
例えば、この赤いコイルによって中心に超高温状態をつくり、その中でフュージョン反応が起こります。発生した熱は周囲の壁に伝わり、「ブランケット」と呼ばれる構造で回収されます。 言葉だけでは伝わりにくい流れを、“見れば分かる形”にしたいと考えました。

JT-60制御棟の玄関ホールに展示したJT-60SA模型とITER模型

ITER模型の製作のきっかけは?

昨年、JT-60SAの模型を使って、フュージョンの説明をしたのですが、その際、よく聞かれたのが、「その熱はどうやって取り出すのか?」という質問でした。
重要なポイントなのですが、説明だけではなかなか伝わらない。
それなら実際にフュージョンエネルギーを起こすITERの模型で示したほうが早い、と思ったのが始まりです。
ブランケットを含めて再現したのは、そのためです。

製作で苦労された点は?

ITERの模型の前に、JT-60SAの模型を製作したのですが、そこで大変だったのは、ドーナツ状のトーラス構造です。直線ではないので、均一に丸く加工するのが非常に難しい。いくつもの方法や道具を試して、ようやく「これならできる」というやり方にたどり着きました。

さらに構造を極力再現させるため、CADデータをもとに図面を引き直し、パーツごとに分けて製作しました。木材で作る以上、強度とのバランスも必要で、実物のように薄くはできません。そのため、形状を保ちながら再現できるよう、図面も何度も調整しました。

特に難しかったのが、真空容器の形状です。最初は板に切れ目を入れて曲げる方法を試しましたが、再現性が良くありませんでした。最終的には内部の型を先に作り、その上に板を貼り合わせてパーツ化する方法にしています。

それを20度セクターごとに製作し、最後にトーラス状に組み上げるのですが、個々のセクターがぴったり合うかどうかは、実際に組んでみるまで分かりません。
一度合わせて、隙間を見ながら削って調整し、少しずつ合わせていって、ようやく360度につながる形にしていきました。これはかなり手間がかかりましたね。

組合わせでも工夫しています。セクターを接着剤で固定してしまうと修正ができないため、竹ひごを使って差し込みながら組む方法を取りました。

修正や調整がしやすいように作業を進められたのは、流石ですね!

最終的にきちんと組み上がるかどうかは、最後まで分からなかったんです。不安を抱えながら作り続けて、実際に組み上げてみて、ようやく形になりました。
今回のITERの模型は、これらのJT-60SAの模型製作の経験を活かして製作しました。

多少の“遊び”はありますが(笑)、それも含めて模型らしさかなと思っています。

JT-60制御棟の玄関ホールに展示したJT-60SA模型とITER模型

完成までの期間は?

このITER模型の製作期間は約4か月です。
JT-60SAに比べると大きく重いので、パーツの支持や固定方法等の試作も含めると、もう少しかかったかもしれません。
ITER模型より先に作ったJT-60SAの模型は、初めてだったこともあり、その初号機には10か月ほどかかりました。
JT-60SAの初号機は、那珂研に寄贈し、2号機はJT-60SAの共同研究機関であるヨーロッパの研究機関に寄贈しました。
その後、箱に入れて持ち運びできる3号機も製作しました。それは、各地のイベント展示などで活用していきたいと考えています。

今後の活用について教えてください。

フュージョンは、どうしても難しく見えてしまう分野です。
でも、こうして“形”になることで、一気に距離が縮まると思っています。
実際に見て、「こうなっているのか」と感じてもらう。
言葉では伝わりにくい部分を、直感的に理解してもらう。
そうした体験の入り口として、この模型を活用していきたいですね。

JT-60制御棟の玄関ホールに展示したJT-60SA模型とITER模型

最後に、若い世代へのメッセージをお願いします。

フュージョンは、まだ完成していない技術です。
分からないことも多いし、解決しなければならない課題もたくさんある。
でも、だからこそ面白い分野でもあるんです。これから関わる人が、そのまま未来をつくることができる。次に前へ進めるのは、これからの世代だと思います。
この模型が、その一歩につながれば嬉しいですね。

池田さん、ありがとうございました!
皆様、那珂研に見学の際はぜひ模型を見に来てくださいね!

那珂研では、フュージョン(核融合)研究について地域の皆さまに身近に感じていただくため、那珂市内の小中学校や図書館、東海村の原子力科学館に「フュージョン展示コーナー」を設置しています。

詳細は「フュージョン展示コーナー」ページをご覧ください!



模型づくりの転機 ― 名古屋城模型

 池田氏の木工模型製作の歩みの中で、大きな転機となった作品があります。
それが、名古屋城の天守を再現した模型です。
 この名古屋城模型は、JT-60SA模型(1号機)を製作した後、新たな挑戦として取り組んだものです。実は、池田氏の亡くなった義父は大工で、高齢となり家屋建築から引退後、羽黒山五重塔等、神社仏閣のスケールダウンした木工模型を作り始めていたのですが、亡くなる直前に手がけていたのが名古屋城だったのです。ただし突然死であったので、名古屋城模型は基礎の石垣までで、その上にそびえる天守は出来ておらず、且つ、その製作図面は見つかりませんでした。このため奥様から、いつか名古屋城模型を完成させてほしいと言われていたのですが、技術的にハードルが高く、そのままの状態にしておりました。しかし、JT-60SA模型を製作し、少し経験を積んだことと、戦災で消失する前の名古屋城の実測寸法図がインターネット上で公開されていることを知り、ついに完成に向けて着手したそうです。

【参考】池田氏が参考にした図面データは以下
https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/20_etsuran/
特別史跡 名古屋城 より
https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/

 しかし、実際の図面と義父が作っていた模型の平面図の形状が合っていないことが分かり、改めて実測寸法を基に、石垣を修正するとともに、比率が合った製作図面を製作したそうです。また木材では、大きなお城を図面通りに縮小して作ることは、強度的、加工的に困難なため、木材で、いかに「城らしさ」を表現するかが課題でした。このため、屋根の反りや重なり、全体のバランスなど、実際の印象に近づける形状とするための試行錯誤を重ねながら、一つひとつ手作業で仕上げていきました。

その結果、作品としても満足のいく仕上がりとなり、池田氏にとって木工模型製作の楽しさを改めて実感する機会となりました。

池田氏が制作した名古屋城模型(1/55スケール)

池田氏が制作した名古屋城模型(1/55スケール)

池田氏が制作した名古屋城模型(1/55スケール)

池田氏が制作した名古屋城模型(1/55スケール)

 この名古屋城模型は1/55スケールで製作されており、天守のみでも高さ約70cm、横幅約80cm前後、石垣を含めると高さは約1.1mに達する大型の作品です。細部まで丁寧に作り込まれたその姿は、建築物としての迫力と木工ならではの温かみを併せ持っています。

 この経験で得られた「形をどう見せるか」という視点や、構造と見た目の両立に対する工夫は、その後のJT-60SA模型(2号機、3号機)やITER模型の製作にも活かされています。

 分野は異なるものの、建築物である城と最先端の核融合装置には、「巨大な構造物を理解しやすく伝える」という共通点があります。名古屋城模型の製作を通じて培われた技術と感覚が、現在のフュージョン模型づくりへとつながっています。

名古屋城模型(1/55スケール)とJT-60SA模型(1/25スケール)3号機の比較

名古屋城模型(1/55スケール)とJT-60SA模型(1/25スケール)3号機の比較

 このように製作された名古屋城模型とJT-60SA模型を並べると、分野は異なるものの、いずれも手作り模型としては大型であり、実物スケールの大きさを体感することができます。名古屋城模型は高さ約1.1m、JT-60SA模型は約60cmであり、並置することで建築物と核融合装置それぞれのスケール感の違いがより際立ちます。  参考までに、名古屋城の天守は約50m、石垣を含めると約60〜65m程度、JT-60SAは高さ約15mの装置です。こうした実物の大きさを模型で比較できる点も、展示の魅力のひとつといえるでしょう。
 なお、JT-60SA模型(1/25スケール)3号機(本体+80度セクター)は持ち運び可能な構成となっており、今後、各地でご覧いただける機会も期待されます。

JT-60SA模型(1/25スケール)3号機(本体+80度セクター※写真は塗装前のもの)

JT-60SA模型(1/25スケール)3号機(本体+80度セクター※写真は塗装前のもの)