スタッフブログ 2025年8月(職場見学シリーズ・その1)
ITER建設サイトでは、インターン生やポスドク研究員(※)、新しく採用された職員向けに職場見学が行われています。ITER機構で働く日本人職員が引率し、現場を回って説明をします。
※「ポスドク研究員」とは、「ポストドクター研究員」の略で、博士号(Ph.D.)取得後に、さらに研究を続けるために大学や研究機関などで働く任期付きの研究職です。英語では 「postdoctoral researcher」や「postdoc」と呼ばれます。
今回からスタートする「職場見学シリーズ」では、ITER組立が行われているトカマク複合建屋内の組立ホールでの職場見学の様子(2025年5月)をご紹介します。
まずは、ITER建設サイトを俯瞰してみましょう。
ITER建設サイト外観写真(2025年5月)より。
広大な敷地の中央にある高い建物の中でITERが組み立てられています。
ITER建設サイトの180ヘクタールの広大な敷地の中には、42ヘクタールのITERプラットフォームがあり、ITERを建設するための複数の建屋が配置されています。今回は①トカマク建屋で組み立て中のITERを見学し、その後に②組立に必要な部品を保管している倉庫、③旧ポロイダル磁場コイル巻き線建屋を見学します。
まずは、組立建屋から入り、トカマク建屋にあるトカマクピットへ向かいます。
トカマク建屋に隣接する幅60m・長さ97m・高さ60mの大きな組立建屋は、トカマクピットに設置される前に、巨大部品の事前組み立て作業を行う場所です。
組立建屋内部(組立ホール)・ITERトカマク建屋内部 ※組立ホール側から撮影(2021.7.7)
真空容器セクターとサーマルシールド(熱遮蔽)、2つのTFコイルを装着するサブセクター組立のための巨大なツール「サブセクター組立ツール」を眺める見学者たち。
サブセクターの説明は
「ITER建設サイトの状況(2021年4月現在)」 をご覧ください。
右側には2基のサブセクター組立ツールが並び、左側には、ITERの主要機器の一つ、中心ソレノイド(※)が組み立てられています。※中心ソレノイドは、プラズマの立ち上げ・燃焼・立ち上げの制御に必要な磁束を発生させる超伝導コイルです。
インターン・ポスドク研究員を引率し説明をしている女性は、機器の組立作業を担当するチームに所属している中本さん
トカマク建屋に着きました。トカマクピットは、外側の窓から見学します。
熱心に質問をするインターン生
窓からトカマクピット内を覗く見学者たち
トカマクピットに設置されたサブセクターが見えます
サブセクターは、440tの真空容器セクター、日本が製作を担当した360tのトロイダル磁場コイル2つ、サーマルシールドが一体化した、ITERの心臓部に設置される非常に高い製作精度が求められる機器です。
トカマクピットに設置されたサブセクター
トカマクピットの底には、ポロイダル磁場コイル、サブセクターを支えるための重力支持脚が設置されています。
サブセクター組み立て、ポロイダル磁場コイルの説明は
「ITER建設サイトの状況(2021年4月現在)」 をご覧ください
トカマクピットのサブセクターを背景に記念撮影
トカマク複合建屋を後にします。
手前にある白色の梱包されたものはITERの天井部分「クライオスタットの蓋」です
次に、ITER組立に必要な部品を保管している倉庫を見学します。この倉庫の中には、日本が調達を担当したトロイダル磁場(TF)コイルが格納されています。
倉庫前で記念撮影
倉庫の中に入ります。
奥に見えるのがTFコイル
ITERのTFコイルは、これまでに前例のない世界最大(高さ16.5m、幅9.2m、総重量310トン)超伝導コイルです。QSTはITER日本国内機関として、日本が調達責任を有する9機のトロイダル磁場(TF)コイルを製作しITER機構に全数を納品完了しました。
巨大な超伝導コイルであるにもかかわらず、高性能なプラズマを閉じ込めるため、ミリ単位の精度が要求されるとともに、高性能な超伝導導体の開発、6万トンを超える巨大な電磁力を支える構造物の開発、耐放射線性電気絶縁技術の開発など数多くの技術的な困難を乗り越えて、達成しました。
ITERの超伝導コイルの説明は 「超伝導コイル説明ページ」 をご覧ください。
TFコイルについて説明する中本さん
奥には日本が調達を担当したTFコイルが
では次に、③旧ポロイダル磁場コイル巻き線建屋に移動します。
旧ポロイダル磁場コイル巻線施設内に磁場コイルの性能を確認するための冷却試験施設が新設されました。この施設では、既存の橋形クレーンを活用し、トロイダル磁場コイルの搬送と設置が行われます。最近実施された試験では、D字型のTFコイルを、将来設置されるクライオスタットの位置まで正確に移動させることに成功しました。±1mmの精度で位置決めが可能であることが確認され、設備の性能と操作手順が実証されました。この作業には、トロイダルコイル専用の吊り具と、横方向の微調整を可能にする新しい位置決めシステムが導入されています。これにより、クレーンの一方向の動きだけでは難しかった精密な配置が可能となりました。
試験は無事終了し、チームにとっては実践的な訓練の機会にもなりました。初の本格的なリフト作業は2025年12月に予定されています。
詳しくは、「ITER NEWSLINE|More preparation for magnet cold testing」をご参照ください。
現場スタッフに話しかける中本さん
橋形クレーンを活用したTFコイルの移動試験の様子
2024年10月にITER職員に合格した日本人の中本さんはQST職員として長年、大型超伝導コイルの製作に関わってきました。
ITER機構では、これまでの業務経験を活かし、試験作業や据付の補助業務を担当しています。
「ITER職員合格者インタビュー」 では、中本さんがITER機構職員になりたいと思ったきっかけ、その夢を形にするまでのキャリアストーリーを紹介しています。ぜひご覧ください!
これからも職場見学の様子を紹介していきますので、楽しみにしていてくださいね!