第57回(2024年度) 日本原子力学会賞 技術開発賞を受賞
令和7年9月10日から12日に開催された日本原子力学会 2025年秋の大会において、那珂フュージョン科学技術研究所 ITERプロジェクト部 超伝導磁石開発グループの中本 美緒 主幹技術員を代表とする「核融合実験炉ITER トロイダル磁場コイル プロジェクトチーム」が、第57回(2024年度) 日本原子力学会賞 技術開発賞を受賞しました。受賞対象は、「核融合実験炉ITER 超伝導トロイダル磁場コイル製作の完遂」に関する技術開発の成果です。
授賞式にて(越塚誠一 学会長と諏訪友音 主任研究員)
受賞楯
日本原子力学会賞 技術開発賞は、原子力の平和的利用に資する技術開発のうち、長期的な取り組みや複数機関による共同プロジェクトなどを通じて得られた、顕著な成果を対象として授与されるものです。特に、大型技術開発において優れた成果を挙げた点が高く評価されます。
QSTは日本の国内機関として、核融合実験炉ITERにおける超伝導トロイダル磁場コイル(TFコイル)の製作において、全体の25%に相当する超伝導導体、100%のコイル容器、そして9機のTFコイル本体の製作を担当しました。2007年に導体の製作を開始して以来、16年にわたる取り組みを経て、2023年にすべてのコイル製作を完了し、ITER機構への納入を無事完遂しました。
TFコイルは、世界最大級のNb3Sn超伝導マグネットであり、その製作には、材料、溶接、機械加工、電気絶縁など多岐にわたる技術開発と、極めて厳格な品質管理が求められました。これらの課題の克服には、製作を担った企業、大学、研究機関、学会関係者をはじめとする各分野の専門家、技術者、研究者の知見と協力が不可欠であり、まさに日本の総力を結集して達成された成果です。本成果は、長年にわたる困難な技術的挑戦に対し、プロジェクトチームが一丸となって取り組み、卓越した知見と協働により成し遂げられたものであり、技術開発賞に相応しいものと高く評価されました。
【参考】日本原子力学会誌ATOMOΣ
授賞式の様子
授賞式の様子
授賞式の様子
受賞チーム代表者: 中本 美緒 主幹技術員
(2024年10月よりマグネットエンジニアとしてITER機構職員に着任)
【評価されたポイント】
ITERプロジェクトは、欧州、中国、インド、韓国、ロシア、米国、日本の7極が協力して推進する、核融合エネルギーの実証を目的とした世界最大級の科学技術プロジェクトです。 その主要機器のひとつであるTFコイルは、これまで人類が製作したことのないスケールのNb₃Sn超伝導コイルであり、製作にあたっては多くの技術的課題を克服する必要がありました。TFコイルの製作完遂は、核融合エネルギーの実現に向けた重要な一歩であるとともに、日本の高い技術力を世界に示す成果であると考えています。今回の受賞は、こうした挑戦と成果が高く評価されたものと受け止めています。
【苦労した点】
一般の機器でも、電源コードが本体から引き出される部分で破損が生じやすいことがありますが、TFコイルにおいても同様の問題が発生しました。コイル本体は電気性能を維持するために電気的な絶縁が施されていますが、内部に取り付けられた計測線は、絶縁部から引き出される境界部分で破損しやすいことが、初号機の製作過程で明らかになりました。原因を調査した結果、絶縁に使用された樹脂と、計測線の絶縁被覆材との相性が悪く、境界部で樹脂が被覆材に付着することで破損を引き起こしていることが判明しました。そこで、樹脂が被覆材に付着しないようにする改善案を提案し、試作試験によってその有効性を確認した上で、実機に適用しました。この問題の発生から初号機の修理完了までには約1年を要する大きな問題となりましたが、提案した改善策は後続号機にも適用され、製作工程の信頼性向上に貢献する成果となっています。
【今後の抱負】
現在、ITER機構では、納入されたTFコイルの冷却試験に向けた準備が進められており、私は多国籍チームを牽引する立場でその取りまとめにあたっています。冷却試験グループでは、TFコイルの技術責任者として、試験前後の準備作業の手順検討や必要な治具の調達など、円滑な試験実施に向けた体制構築を進めています。今後もチームの力を結集し、冷却試験を着実に遂行することで、ITER計画の成功に貢献していきたいと考えています。
TFコイルの前で組立について議論する中本美緒 主幹技術員
多国籍チームを牽引する中本美緒 主幹技術員
中本美緒 主幹技術員(磁場コイルの性能を確認するための冷却試験施設にて)