令和5年度量研理事長表彰 研究開発功績賞を受賞
令和5年7月13日、量研理事長表彰が行われ、ITERプロジェクト部RF加熱開発グループの池田亮介研究員を代表とする9名(池田亮介研究員、梶原健グループリーダー、寺門正之主幹技術員、新屋貴浩主任研究員、矢嶋悟主任研究員、石田圭人技術員、小林貴之上席研究員、澤畠正之研究員、平内慎一主幹技術員)が「核融合炉用複数周波数メガワットジャイロトロンの開発」で「研究開発功績賞」を受賞しました(図1)。
図1 量研理事長表彰 研究開発功績賞を受賞したRF加熱開発グループ池田亮介研究員を代表とする9名
RF加熱開発グループでは、これまでITERに向けて周波数170GHz(ギガヘルツ)、出力1MW(メガワット)の性能を有するプラズマ加熱用マイクロ波発生装置「ジャイロトロン」を開発してきました。しかし、単一の周波数でしか出力できないITERジャイロトロンでは、核融合炉の運転磁場によっては効果的なプラズマ生成および加熱が行えない領域があります。
今回開発した複数周波数メガワットジャイロトロンは、170GHz、137GHz、104GHzの3つの周波数を選択的に出力することが可能で、ITERで想定されるあらゆる運転磁場に対して効果的なプラズマ生成および加熱を可能にします。
ジャイロトロンのマイクロ波発生部では、動作条件により様々な周波数のマイクロ波を励起させることが可能ですが、ジャイロトロン内にあるモード変換器から出力されるマイクロ波の放射角度は周波数毎に固有の角度を持っています。このため、ジャイロトロンの設計はこれまでは単一周波数が基本でした。しかしながら、当グループでは、様々な放射角度を持つ周波数の中に、同一方向に伝搬し、かつ出力窓も透過できる稀有な周波数の組合せを見出し、170 GHz、137 GHz、104 GHzといった複数周波数動作が可能であることを発見しました。
しかし、マイクロ波は周波数が低いほど伝搬するにつれ大きく広がるため、実際には低い周波数のマイクロ波の広がりを抑えることが難しく、マイクロ波が伝搬中に散逸して高出力で連続動作させることが困難でした。この問題を解決するために、これまで別々に最適化をしてきたモード変換器とジャイロトロンおよび準光学整合器内の金属ミラーを一括で最適化する設計手法を開発し、その結果モード変換器から出力される3つの周波数のマイクロ波分布をジャイロトロン窓及び導波管入口において3周波数ともに同一形状に近づけることに成功しました。
新しい設計手法によって製作されたジャイロトロンは、3周波数ともに設計通りのマイクロ波分布を持ってジャイロトロン出力窓の中心部を透過して、準光学整合器を介して導波管中央部へと伝搬して導波管先に設置したターゲットスクリーンの全く同じ位置に到達し、狙い通りのマイクロ波分布を得ることが出来ました(図2)。
図2-1 マイクロ波分布
図2-2 準光学整合器を取り付けたジャイロトロン
これは、ジャイロトロン内部及び準光学整合器内部のマイクロ波の散逸を大幅に減少させることに成功したことを意味しており、実際、当該ジャイロトロンにおいて、単一ジャイロトロンによる3周波数・メガワット出力・連続運転を世界で初めて実現することに成功し、量研の理事長表彰として研究開発功績賞をいただきました。
ITERのファーストプラズマ以降に計画されているジャイロトロンの増強計画にて、先進型ITERジャイロトロンとして導入できるように更にブラッシュアップし、ITERプロジェクトへ貢献できるよう尽力していきたいと思います。
また、今回は170GHzより低周波数側の複数周波数化を進めましたが、高周波数側についても検討を進めることで、将来の核融合原型炉まで適用できる複数周波数ジャイロトロンの実現も目標としたいと考えています。