令和4年度文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)を受賞
令和4年度文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)を受賞した量子エネルギー部門ITERプロジェクト部の中平昌隆次長(兼超伝導磁石開発グループリーダー)、小泉徳潔上席研究員、井口将秀主幹研究員、櫻井武尊主任研究員、中本美緒主幹技術員の5名に対する授与式を、6月6日に那珂研究所で行いました。
この賞は、文部科学省が日本の科学技術水準の向上への貢献を目的として定めているもので、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に贈られます。
受賞者5名に対して、量子エネルギー部門の池田佳隆部門長が賞状と盾を授与しました。
受賞した内容は以下の通りです。
・業績名:イータートロイダル磁場コイル1号機の開発
・受賞者:中平 昌隆、小泉 徳潔(現ITER機構)、井口 将秀(現文部科学省)、櫻井 武尊、中本 美緒
写真1 那珂研での授与式に参加した受賞者5名
(左から、櫻井主任研究員、中平ITERプロジェクト部次長、小泉上席研究員、中本主幹技術員、井口主幹研究員)
イーター(ITER)のトロイダル磁場コイル(TFコイル)は、これまでに前例のない世界最大 (高さ16.5m、幅9m、総重量約300トン)のニオブ・スズ超伝導コイルで、量研ではITER日本国内機関として、我が国が調達責任を有する9機のTFコイルを調達しています。
ITERのTFコイルの調達においては、これまでの大型構造物の高精 度製作として実績のある1/1000(10mで10mmの誤差)を一桁上回る1/10000(10mで1mmの誤差)の製作精度が必要で、さらに超伝導導体に0.1%以上のひずみを与えることなく、加工・重量製品取扱いを行うこと、運転温度である-269℃(4K)といった極低温でも高靭性を保つ構造材料を開発することが大きな課題でした。
量研では、超伝導導体へのひずみを制御、管理し、かつ、超高精度を両立するという技術開発に成功しました。また、極低温における強度特性値を、化学組成等により予測、制御する手法を開発し、莫大なコストと時間を要する構造材料の極低温の試験を合理化し、高品質な構造材料の開発及び調達に貢献しました。
TFコイル1号機の完成後、遅滞なく輸送に着手し、令和2年4月にはITER建設サイト(仏国)に到着させました。また、1号機完成から2ヶ月後に2号機も完成させ、ITER計画への日本の貢献とプレゼンスを大きく世界に示すことができました。
現在、この1号機、2号機はITER建設サイトにおいて、令和4年5月に最初にトカマクの所定位置に組み付けられています(写真2)。また、日本の調達分担9機中6機までのTFコイルを既にITERサイトに到着させています。今後、残り3機を成功裏に完成させ、培った技術を展開して核融合エネルギーの実用化を推進していく予定です。
写真2 トカマクの所定位置に組み付けられたTFコイル初号機と2号機
(写真:ITER機構提供)
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「今回の受賞理由(評価されたポイント)を教えてください」
これまでに前例のない世界最大 (高さ16.5m、幅9m、総重量約300トン)のD型形状のニオブ・スズ超伝導コイルを世界最大級に厳しい要求を満足しながら製作し初めて完成させたことだと思います。
技術開発はもちろんですが、核融合エネルギー実用化という社会的インパクトが大きいテーマに対し、世界に先駆けて製作難易度が高い機器を完成させたことが大きいと思います。
「これまでの研究の中で上手くいかなかったことは何でしょうか、またそれをどうやって乗り越えてきましたか?」
ITER機構(IO)からの高精度要求と、メーカーからの達成実績に基づく精度緩和要求の調整に大変苦労しました。連日昼はメーカーと打ち合わせ、夜はIOと打ち合わせ、IOの就業時間が終わる日本時間の真夜中まで調整作業を行いました。何とか双方納得するところを、一つ一つ見つけていきました。
実際の製作が計画通りにいかなかったときは非常に苦労しました。製作メーカーも交えて原因調査を徹底して行い、修正案を検討し、計画に反映させることで乗り越えてきました。
ITERは国際プロジェクトということもあり、調達品には厳しい納期が設定されています。そのため、研究として課題点を突き詰めたいという願望と、調達として工程を守るという責務の板挟みになることがあります。突き詰めるべきところでは時間をかけて課題点を理解し、他の合理化できるところは作業の効率化を図ることで、それらを両立できたと思います。
「フランスでITERの組立が進む中、先月1号機が最初のサブセクターとしてトカマクの所定位置に組み付けられましたが、どのような感想を持ちましたか?」
いよいよ「部品」だったものが、「装置」に 変わっていくところで、ワクワクすると同時に上手く組み付いてくれるようにとハラハラしています。その先に組立後の動作試験もありますので、まだまだ気を抜けず、心配は続きます。
1号機の製作では世界初のITER TFコイル製作ということで、苦労もありましたので、ようやくここまで来たか、と感慨深いものがありました。成人を迎えた子を見守る親の気持ちかもしれません。
「研究のやりがいを教えてください。」
まだ誰もやったことの無い全く新しい事業に携われることの期待と誇りがあり、それを達成した時の満足感が何よりの研究を続けるモチベーションになります。エネルギー不足は世界的な大問題なので、これを解決できると思うと、大変やりがいを感じます。
今まで全くわからなかったことに対して、データや検討を重ねることで自分なりの理解を形成出来た時はやりがいを感じます。
様々な分野の専門家の方々と出会い、常に新しいことが学べることにやりがいを感じています。
ITER計画は多くの関係者が参加しているプロジェクトです。その中で研究開発を進めるということは、調整も大変ですが、多くの新しい考え方や知識に出会えます。それらを実際のものづくりに活かせるということが、非常に面白いところだと思っています。