ITER CS導体製作に関する研究成果で溶接物理・技術奨励賞を受賞
令和5年8月8日に一般社団法人 溶接学会 溶接法研究委員会の表彰式が行われ、日鉄エンジニアリング株式会社、大阪大学、千葉工業大学、量子科学技術研究開発機構(以下,量研)が共同で「高マンガンステンレス鋼のTIG溶接時における硫黄含有量が溶け込み深さに及ぼす影響」に関する研究により溶接物理・技術奨励賞を受賞しました。
ITERの中心ソレノイド(CS)導体はNb3Sn超伝導撚線を金属管(ジャケット)に引き込み、ジャケットを縮径することで、撚線とジャケットを密着させる構造としています。ジャケットは高強度と高靭性を両立できる高マンガンステンレス鋼(JK2LB)を使用しており、導体の長さ(最大918m)のために100本以上のジャケット(7m)を溶接して製作されます。撚線とジャケットの隙間が約1㎜であるため、撚線の引っ掛かりを防ぐため、溶接部裏側の形状が重要であり、溶接による溶け込み深さを高精度に管理することが求められます。
ジャケットの硫黄含有量により溶接時の溶け込み深さが異なることが観察されたことから、本研究では、硫黄含有量と溶け込み深さの関係とそのメカニズムを調査しました。一般のステンレス鋼(SUS304)において、硫黄含容量により溶融時の表面張力が変化することが知られています。表面張力が変化すると、溶接時の溶融池に生じる熱対流の一種であるマランゴニ対流が変化することから、これにより溶け込み深さが変化するのではないかと考えて、本研究が行われました。図1に示すように5ppmから20ppmという非常にわずかに含有している硫黄によって、溶融池の形状が異なるほどの影響があることを確認しました。さらに、数値解析により硫黄含有量の違いによる表面張力によってマランゴニ対流の流れ方が変化し、溶け込み深さに影響するというメカニズムを明らかにしました。
本研究成果は、現在、計画されている核融合原型炉で用いられる超伝導導体の製作に適用可能であるとともに、高精度の形状管理が要求されるあらゆるステンレス鋼の溶接に対する知見となるものです。
図1 硫黄含流量が溶け込みに及ぼす影響