『英語+建築』の学びをITERプロジェクトに活かす!
多方面からのマネジメント力を武器に、人類のためのビッグプロジェクトに挑戦
堀江 愛子さん(2024年10月 ITER機構職員採用)
合格ポジション:Construction Contract Manager
現:Project Control Responsible Officer
堀江さんは、社会人になって約10年間、建築設計事務所でのマネジメント業務、2022年からは外資系コンサルティング会社で次世代医療機器開発のマネジメント業務に従事されてきました。特殊技術を専門とするエンジニアや、建設・製造会社等の多方面の専門家たちと協力しながら、スケジュール・コスト・品質・安全の観点から技術検討や部門間の調整を行うマネジメント業務を経て、2024年10月よりITER機構のコントラクトマネージャーとしてのキャリアをスタートさせています(現在はProject Control Responsible Officer)。
自分の直観に正直に進んできた結果、ITERプロジェクトに辿り着いたという堀江さん。インタビュアーとして、彼女のスケールの大きな人生観に感銘を受けました。
ぜひインタビューをご覧ください。
インタビュー日:2024年7月22日
学生時代、留学中のダイバーシティの目覚めが
一番の収穫だった
小学校の頃から通い始めた英会話スクールで、多国籍の先生たちと話しながら異文化を感じられることが楽しく、いつか世界のどこでも活躍できる大人になりたいという気持ちが自然と芽生えていました。大学は世界とのつながりが広がる外語大を選択し、英語を専攻することで自身の可能性を世界に拡大させました。
自らを厳しい環境に置き、自己について考えた日々
大学生活のうち1年間はアメリカシアトル近郊のベリンハムという小さな街へ交換留学をしました。それまでに英語やアメリカ他国の文化は大学で学んでいたものの、実際にアメリカで生活を始め現地の授業に参加すると、想像以上の文化的・人種的違いを体感しました。日本人が少ないという理由で選んだ留学先では、授業に日本人が私一人という環境に置かれることが少なくありませんでした。日本の授業とは違い、正解を答えるのではなく意見を求められるため、「日本人としてどう思う?」と聞かれ、ドキッとするようなことが多々ありました。日本で自然と周囲に同調することを身に着けてしまっていた私は、自分の意見を聞かれることが最初は嫌で仕方なかったものの、他国の人が違う考えを持つことに柔軟なアメリカの人々をみて、これが国際的であるということかと受け入れ、自分自身がどう考えるのか、自分に向き合い自分の声を聞くようにしました。次第に、日本人であることを誇りに思えるようになりたい、私はわたしらしくいようと思ったのが、ダイバーシティの目覚めに近いと思います。
英語+αを考えた時、「建築」以外なかった
大学3年時の留学から戻ると、既に就職活動に後れを取っていました。私がスキルとして身に着けた英語は一コミュニケーションツールでしかないため、英語を使って何がしたいのかを考えさせられました。そこで、小学生の頃から興味があったアントニオ・ガウディの作品が思い浮かび『建築』をやってみようと思いたち、建築の世界に飛び込むことになります(ガウディ作品が建築であるかどうかはよく議論にあがりますが、当時の私は建築であるという認識でした)。
私は新卒就職活動は早々に諦め、大学卒業後すぐに3年間の建築専門夜間学校へ通い、建築士資格を取得したのち、社会人経験をスタートさせました。
人生のターニングポイントは「尊敬できる上司との出会い」
マネジメント業務の難しさと楽しさを知る
初めて勤めた日系設計事務所でマネジメント業務の面白さを知ったことが、自身のキャリアを変える大きなターニングポイントとなっています。
入社当時、いくら建築の勉強をして資格を取得したとはいえ、役に立てることは出張手配や荷物持ち程度でした。英語ができるという理由から海外クライアントを対象としたインバウンドプロジェクトのマネジメント業務を担当しましたが、専門知識や経験がないと、価値あるマネジメントサービス提供ができないことに気付き、とにかく経験を積み、継続的に学ぶことに注力しました。幸運にも非常に面倒見がよく、周囲と違うバックグラウンドをもつ私を受け入れてくれる器の広い上司と一緒に働くことができたため、マネジメントに欠かせない「建築専門知識」と「人に物事を伝える方法」を彼のOJTを通して学ぶことができました。
建築専門家集団の中にあるマネジメント部隊であったため、最先端の技術設計や開発業務が舞い込んでくると、すぐに難しい話になり置いてけぼりになることが日常茶飯事でした。しかし、マネジメントの専門家としてプロジェクト全体を俯瞰して、各担当者がどのような状況におかれて会話をしているのか、相手の立場や責務を確認しながらアクションを取り、解決するまで諦めずに繰り返すことがより良いマネジメントにつながる、ということを十数年の経験で学びました。
どの業界、どの国であっても、結局は人間の営みである以上、マネジメント業務においてはコミュニケーションを取ることが欠かせず、いかに違うバックグランドをもつ人々と交流できるかがカギだと気付きました。それは小学校時代に英語を学んで異国の先生たちと会話をすることが楽しかった時と似たような感覚であり、自分の性格にあっている業務なのだと認識しました。
人間にしかできないことをやりたいという想いが
ITERプロジェクトへ導く
日本にいながらも、アメリカ、マレーシア、フランス、フィリピン等、国際色豊かなクライアントと働けたことに満足はしていましたが、自分は日本の外でも通用するのかどうか、通用できる人でありたいと想像し始めていた矢先に、友人からITERプロジェクトのことを聞きました。人類共通のエネルギー問題に対して、多国籍人種が協力しあいながら最先端技術の開発により乗り越えていこうとしているプロジェクトが世の中に存在することを初めて知り、絶対に関わりたいという感情が自然に生まれ、数時間後にはプレエントリーをしていました。
マネジメント経験が生かせる公募に出会う
公募は、エンジニア職がとても多かったので、そこに自分がどのように貢献できるかと考えた時に、「マネジメント」が唯一自分にできること、かつ挑戦していきたい分野だと確信しました。そして、関連する公募が出てきたら絶対応募しようと思っていました。
ITER日本国内のプレエントリーに登録してから1年弱、「Construction Contract Manager」という公募が出ました。Job Descriptionを見た時に、業務内容はほぼマッチしているものの、公募タイトルにあえて「Contract」と付いていることから、もしかするといくつもの契約書を編集・管理する業務がメインで、これまでのマネジメント経験はあまり役立たないかもしれない、と一抹の不安がありました。
しかし、まずは一歩踏み出したい気持ちが勝り、自身の業務のうち一部でも採用担当者の目を惹くことができれば上出来だという気持ちで、できる限り具体的に経験内容を記載して応募しました。
数ヶ月後、書類選考通過連絡が来た後面接練習がスタートしますが、マネジメント業務職は過去の募集機会が少ないため事前の情報収集は難しかったです。プロジェクトの経過状況によってもマネジメントの状態は変わることが想像できたため、面接中の限られた質疑応答時間を通して、できる限り現状把握と業務内容の不明確な部分を払拭させました。私の場合、ITERの建設部隊がスケジュール、コスト、スコープの観点において予定通り進捗するようマネジメントすることを主な役割としていることがわかったため、これまで日本で培ってきたことが役立つと確信しました。
面接後、ようやくITERで実際に働くイメージがしやすくなり、一緒に働くであろう多国籍人種の人々とつながりながら、新しいマネジメント経験が構築できるという期待を持つこともできるようになりました。

これからの社会の進化・自分の進化
- ITER職員としての1年間とその先を見据えて -
世界33ヵ国が参加するITERプロジェクトは、職場においても性別・年齢・経験・人種の違いを超えたほかに類をみない多様性に富む環境で遂行されています。ITERに来てから感じるのは、このプロジェクトの成功は核融合エネルギーの実現に向けた大きな一歩であると同時に、人類の関わりそのものの大実験場でもあるということです。どのスタッフと対面しても、違う意見を持つことが前提で会議や議論が進められます。意見が割れたり、理解しあうまで時間がかかることも多くありますが、お互いを尊重し、歩み寄り、争うことなく一つのゴールを目指す国境を越えた人々の姿を見ていると、ITERは世界平和の象徴であるとも思います。
ITERに身を置いて約1年経ちますが、大学時代に感じ始めた「日本人として自分らしくいたい」と思っていたことが今は実現しつつあり、日本人としての自分を誇りに思い、自分らしくいられていると感じています。自然体でいられることが安心感につながり、家族や友人と遠く離れていても頑張ることができるモチベーションにもつながっています。さらに、今はここでの経験をいつか必ず日本に持って帰れるようにしたいという思いが芽生え始めてきています。私にとってのITERは、これからの人類と自分自身の進化が楽しみになる場所です。
無意識の意識化で自分を進化させていきたい
住む場所や職を変えた時に、何かに気がついたり、自分が知らない世界を知る機会が生まれやすくなります。渡仏したら、これまで常識だと思っていたことがそうでない場面に遭遇することがたくさんあると思いますが、逆にそれがとても楽しみで、まさに生きているという感覚が得られるのかなと思っています。無意識を意識化させることが、自分の進化として楽しめたらよいと思います。
これからITER職員を目指す方々へのメッセージ
応募するきっかけは人それぞれだと思いますが、人類がまだ見たことのない領域に突入しているITERプロジェクトに身を投じるので、わからないことや不安が生じるのが当然だと思います。それはITERに関わるメンバーが皆共通で抱え、乗り越えようとしていることでもあります。
約100年前に発見された核融合反応を現在に生きる私たちがバトンを受け取り、次世代につなげていこうという壮大なミッションを達成することを想像した時、心が騒ぐ感覚や、未来を見てみたいと思えたら、きっと選考過程を楽しめると思います。
あまり気を張らずに、Job Descriptionに少しでも当てはまりそうだと思ったら、思い切って一歩踏み出してください。合否は別として、自分の可能性を広げるとても良い機会になりますし、大きな前進のみが待っていると思います。