ガンダムに夢中になった少年が、のちにITERで活躍!
研究生活の大半をITERに捧げてきた井口さんだからこそ語れる、
これまでの苦労とやりがい、そしてITERプロジェクトに掛ける想いとは
井口 将秀さん(2024年4月 ITER機構職員採用)
合格ポジション:Mechanical Engineer
井口さんは、2010年に日本原子力研究開発機構(JAEA)に入所して以来、約11年間ITERのTFコイル構造物の製作技術開発や、製作プロジェクトの推進業務に従事してきました。その後文部科学省派遣の後に、JT-60SAの超伝導マグネットの運転に携わりました。2023年の11月からは、職員とは異なるIPAという契約形態でITER機構の機器の補修や、組み立て・据え付けに関する業務を行い、現在はITER職員として引き続き同業務に貢献しています。
これだけ長期間ITERプロジェクトに関わりながら、改めて挑んだ職員採用試験。ITERを良く知る井口さんに、専門的な内容からITERでの働き方までお話をお聞きました。
インタビュー日:2024年5月15日
小学校で出会った『ガンダム』と核融合への憧れ
小学校高学年でアニメのガンダムに魅了され、この時に『核融合(フュージョン)』という子供には難しい言葉にも出会いました。これがきっかけで、当時はパイロットになることを夢見ていました。ところが中学生の時の視力の低下によりパイロットの夢を断念せざるを得ないと分かり、子供ながらに大きな挫折を味わいました。そんな時、親が航空機を作る道もあることを教えてくれました。その後、大学の工学部へ進学しましたが、授業等を通し、高度な技術で巨大な装置群を作り上げる原子力工学分野にも強く興味を惹かれるようになりました。そのような中、研究室配属の際に核融合炉工学の研究室があることを知り、奥底に眠っていた『フュージョン』への興味が再び燃え上がり、核融合の道へと進むことを決意しました。
まだ目の前には存在せず、誰も実現したことのない全く新しいものを生み出すことに惹かれ、さらに、原子力炉工学の先に広がる核融合炉工学という分野の奥深さに魅力を感じました。核融合装置の構造健全性評価手法の開発に取り組む研究室を選びました。主に超伝導コイルやダイバータ等を取り扱う研究室でしたが、当時私は数値計算に興味があり、理論計算が可能でまだ誰も手を付けていなかったITER真空容器を選びました。
JAEA時代:TFコイル構造物製作で得た貴重な経験と仕事に対する意識改革
JAEAは現在の量子科学研究開発機構(以下、QST)の前身であり、当時からITERプロジェクトにおける日本分担機器の研究開発や製作に携わっていました。その中でも、TFコイル構造物の製作は、巨大なサイズに対して高い精度要求を満足させるという課題に直面し、大変な苦労がありました。
検討段階では想定していなかった溶接変形が生じ、許容範囲を超えてしまったため、どのようにリカバリーするかという問題に直面しました。私が担当していた構造物という超伝導巻線を格納する容器では、TFコイルに取り付ける機器とのインターフェイスが複数存在し、それぞれの要求寸法を満足できるよう作業を進める必要がありました。
そのため、事前に確認試験を実施して決定した製作方法で作業を進めていましたが、実際には試験で確認した結果とは異なる変形が生じてしまいました。製作途中段階での計測結果をしっかりと納得するまで自分で評価・確認していれば気づけたはずなのですが、その点が不十分でした。この経験を通して、自分で納得することの重要性を痛感しました。また、管理者としてはメンバーや契約メーカーを的確にマネジメントし確認を徹底することの重要性を学びました。この一件を通して、仕事に対する考え方が大きく変わりました。
※TFコイル:Toroidal Field Coil:プラズマを閉じ込めるための強い磁場を生み出す機器
文部科学省派遣で得た新たな視点とキャリアビジョン
QSTでは、職員を文部科学省に一定期間派遣させる制度があります。私もその機会をいただき、2年間研究所を離れて文部科学省で勤務をしました。そこでは、ITER計画だけではなく、日本が国内や国際的に行っている核融合研究開発の政策決定に関する様々な調整業務に携わりました。それまで私は、ITER用のTFコイルの製作に全力で取り組んできました。一方、文部科学省での勤務は、ITERから離れ、「フュージョン」を日本としてどのように進めていくのかという視点で業務を進める必要がありました。そのため、文部科学省での勤務は、これまでの経験をどのように活かしてフュージョンエネルギー実用化に貢献的できるかを考える貴重な機会となりました。
さらに、文部科学省の職員の方々が在外公館勤務や留学を通して積極的に海外経験を積んでいることを知り、海外でキャリアを積むことの重要性も強く実感しました。これまで海外進出には消極的でしたが、文部科学省で勤務する中で、海外もキャリアパスの一つとして視野に入れるようになりました。
その結果、自分が培ってきた極低温構造物の製作技術を活かして、ITERのサーマルシールドの補修・再製作に携わることが一番であるという考えに至りました。
※サーマルシールド:超伝導コイルへの熱侵入を防ぐための機器

日本で培った経験を武器に
ITERプロジェクトへ満を持して挑む
これまで日本で様々な経験を積みITERプロジェクトに携わってきた私にとって、このプロジェクトの最大の魅力は7極35ヵ国という参加国が一体となり、人類史上稀有で巨大な装置を築き上げていく、まさに『サイエンスプロジェクト』であることです。また、ITERプロジェクトはフュージョンエネルギー実現には重要な技術的マイルストーンです。そのような重要かつ壮大なプロジェクトを、異なる文化背景を持つ人々と協力しながら推進していことは、非常に魅力的であり、同時に極めて挑戦的な仕事です。
ITER機構のプロジェクトに参加する方法にはいくつかありますが、私はまずイーター・プロジェクト・アソシエイト(IPA)という制度で現地に赴きました。IPAは派遣元に籍を置きながらITER機構で勤務する制度です。派遣元である企業や研究所は人材を手放さずに済み、任期終了後はその知見を持ち帰って貢献できます。一方、派遣者自身は、最先端技術に触れ、スキルを磨くことができます。
IPAでは、希望通りサーマルシールドの補修や、組み立て・据え付けに関する業務に携わっていました。ITER職員となった現在も、引き続き同じ業務についています。職務範囲や待遇面等から、「将来の核融合開発のためには職員になる」という想いがあったので、自分の経験に合致する公募が出たときに、職員採用試験を受けました。
現在職員として働く中で、ITER機構内の手続きはIPAの時とは異なりスムースに進むことが多く、職員の方が、仕事がやりやすくなったと感じています。
※イーター・プロジェクト・アソシエイト(IPA):ITER Project Associates:派遣元に籍を置きながら、一定期間ITER機構で働く制度。

研究者として核融合開発に貢献する決意
サーマルシールドの補修を着実に進め、品質・コスト・納期を満足させながら確実な任務の完遂を目指します。加えて、トカマク装置の組み立て・据え付け業務でプロジェクト全体の推進に貢献したいと考えています。今後、日本国内で原型炉開発が本格化していく中で、ITERプロジェクトの任務を完了した後には、これまで培ってきた経験と知識を活かし、原型炉の設計・開発・製作等に携わり、日本のフュージョンエネルギー実用化に貢献していきたいと考えています。