■ イーター用中性粒子入射装置の直流1MV超高電圧電源機器製作が完了
イーター(ITER)用中性粒子入射装置(NB)で求められている、世界最大出力の負イオンビーム
(エネルギー1MeV、電流40A、運転時間連続1時間)の実現に向けて、ITER実機に先駆け、実機と
同一性能である実機試験施設(NBTF)をイタリア(コンソルツィオ RFX研究所)に建設中です。
このたび量子科学技術研究開発機構(量研)は、このNBTFで1MeVビーム加速に必要な直流1MV
超高電圧電源機器(電圧1MV、電流60A、運転時間連続1時間、図1)の製作が完了しました。
まず欧州側から供給される6.5kVの低電圧を昇圧変圧器で0.2MVに昇圧し、ダイオード整流器を
通じて整流し、これを5台繋ぐことでイオンを加速するための1MV高電圧を発生させます。次に、
リップルを除去する直流フィルター、全長約100メートルに及ぶ伝送ライン、さらに、1MVのイオ
ン加速電圧に加えて、その1MV高電位上に設置されるイオン生成電源に電力を供給する1MV絶縁変
圧器、組み立てた後に耐電圧性能を確認するための試験用電源(1.3MV,10mA)、短絡ギャップ装
置及び模擬負荷抵抗から構成されます。
2012年2月にITER機構と調達取決めを締結し、設計期間を経て約5年かけて2017年3月までにこれ
らすべての電源機器の製作を完了しました。
この機器の実現に向けては、変圧器の油絶縁、伝送ラインのガス絶縁、HVブッシングの真空絶
縁などの多様な1MV直流高電圧の絶縁技術の開発、これら油・ガス・真空の境界を構成するブッ
シングの開発、さらに大電源システム全体で整合性のとれた耐震性・熱伸び吸収構造の確立などの
技術課題がありました。油絶縁構造では、直流電圧印加時間と共に、内部の油絶縁構造物上での
電界強度が上昇して絶縁破壊に至ることが問題でした。そこで、この電界集中を抑制するよう、
絶縁体の厚みや形状を工夫した絶縁構造を考案しました。伝送ラインは、6気圧の絶縁ガスを保持
する圧力容器内に各種導体が配置されているため、対流も含めた熱解析、耐震解析、電界解析を通
じ、熱伸びや耐震時の変位を許容しつつ電圧を維持できる構造を見出しました。ブッシングについ
ては開発試験で性能を確立してきました。
これら開発・設計を経て、各機器はITERの要求値である1.2 MV、1時間の耐電圧試験に合格し、
順次、NBTFサイトに輸送され、2015年12月から現地工事を開始しました。現在、全体の約8割の機
器の組立てを完了し、残りは欧州が作る機器の工事期間と調整を図りながら、2017年度内には据
付完了、2018年に現地での統合試験を終了する計画です。
図1 直流1MV超高電圧電源機器の全体像